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act.5三日月サプリ<112>

* * * * * * 例え葵に会うため、という建前だとしても、わざわざ集まってくれるだけで嬉しいと言うのに、招待客は皆双子へのプレゼントを用意してくれた。 中でも爽が嬉しかったのは、生徒会の三人から贈られたマグカップだった。色違いのカップはそれなりのブランドでセンスも良かったが、カップ自体というよりもその用途が爽を喜ばせた。 “生徒会室に置いておいていいよ” 最初は奈央の言葉の意味が分からなかったが、葵が補足してくれて意味を理解する。生徒会室には皆がそれぞれ自分のカップを置いているらしい。つまり、生徒会役員の補欠、ぐらいの立ち位置としては認めてくれるつもりなのだろう。 何かヘマをしたら速攻割る、なんて櫻は物騒な事を言ってのけたが、その顔つきは学園に居る時よりもずっと穏やかだ。 忍はさすがに会長らしく、仕事ぶりを見てからでないと判断出来ない、と冷静ではあったが、人手が足りない中で双子が手伝いを申し出たことへは感謝してくれているようだった。 自分達の居場所を確保してもらえた。単純だけれど、それがどれだけ嬉しいことか。兄を横目で見れば、カップを手にした彼もまた目を細め、口元を綻ばせていた。 「よし、じゃあ京介っちの部屋漁りに行こうかな」 「……は?何がよし、だよ。てめぇふざけんな」 ケーキを食べ終えれば、七瀬がそんなことを言い始めてリビングを駆け出していってしまった。それを追いかける京介と綾瀬の足音がドタドタと階下に響いてくる。 「騒がしいな、あいつらは」 「忍イチオシの羽田綾瀬を生徒会に入れたら、おまけであの騒がしいのがついてくるんだよ。どうする?」 「……悩ましいな」 喧騒など物ともせず優雅に紅茶を啜るツートップはどうやら綾瀬を生徒会の一員として迎え入れたいらしい。口数は少ないが、冷静で成績優秀な綾瀬は生徒会役員としては適任だろう。でも、櫻が不安視するようにいつでも傍にいる七瀬が問題だ。 とはいえ、現行の生徒会役員の中で葵しか二年生が居ない状態はいくらなんでもまずいというのは入学したばかりの爽でも分かる。 「そもそもなんで葵先輩以外の二年が居ないんすか?希望者いなかったとか?」 素直に疑問を口にすれば、忍と櫻が揃ってダイニングのほうを指差した。そこに居るのは葵や奈央と共に残ったケーキの片付けをする冬耶の姿がある。

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