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act.5三日月サプリ<113>
「あの人と相良さんが過保護過ぎてね。まず第一関門を突破出来ずに脱落する輩が多すぎたわけ」
「第一関門?」
「役員の推薦依頼。大半が書類すら提出出来ずに終わったよ」
それが何故か、詳しく聞かなくても察することは出来た。
冬耶はいつだってニコニコと笑みを絶やさないが、その裏に何か底知れない圧力を感じることがある。現役時代の伝説も噂としていくつか聞き知っていた。その相棒である遥もまた、畏怖の対象だったらしいことは従兄から聞いたばかりだ。
その二人を相手に役員になりたいと宣言することは勇気のいることなのだろう。
「まぁ、俺達がそれまでの役員候補を跳ね除けたのも問題だろうがな」
自嘲気味に笑う忍の言いたいことも分かる。
普通は一年や二年のうちに役員になり順当に役職に就くものらしいが、この二人はそれまで一切生徒会活動に携わらないままトップに君臨した。今まで役員として活躍していた生徒との亀裂が生じるのも無理はない。だが、そうまでして彼等が生徒会に入ろうとしたのは、他でもない、葵の存在が理由に決まっている。
「ねぇねぇ、これ葵先輩の写真入ってるかな」
今まで会話に加わらず何やらリビングの隅の戸棚を見ていた聖が持ってきたのは一冊のアルバムだった。クリーム色の表紙には確かにフォトアルバムだと刻まれている。
隣家の幼馴染、それも現在共に暮らしているらしい、とあれば確かに西名家のアルバムに葵の写真があってもおかしくはない。
「勝手に見るなよ」
「分かってる、葵先輩にちゃんと聞くから」
突っ走りがちな兄を諌めれば、聖はすぐにダイニングテーブルの葵の元へと向かい、許可を取り始めた。彼のこういう行動的な所は羨ましい。
どうやら了承を貰えたらしい聖は戻ってくるなり、ソファに座り早速アルバムを開き始めた。興味があるのか、忍や櫻まで聖の手元のアルバムを覗き込んでくる。
“Ⅰ”と刻まれたアルバムには西名家の始まりの写真ばかりが並べられ、西名家の両親と思しき男女や、冬耶の小さい頃の姿がメインで収められていた。期待していたものではなかった聖はすぐに”Ⅱ”以降のアルバムをまとめて戸棚から持ち出してきた。
「目つきの悪いガキだな」
「うわぁ西名、そのまんま」
“Ⅱ”のアルバムでは京介も登場し始めた。にこにこと笑う両親や冬耶に囲まれて、まだ赤ん坊であるはずの京介は既に睨みをきかせている。忍や櫻が呆れた声を出すのも頷ける。
葵が現れたのは”Ⅳ”のアルバムの中盤からだった。葵の家族らしき人物とのショットはなく、どの写真も葵は冬耶や京介の影に隠れてカメラを見ようともしていない。けれど、今よりも白に近い髪色も、怯えたような眼差しも、不謹慎だが可愛いと思ってしまうのは止められない。
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