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act.5三日月サプリ<115>

「あーちゃんともだけど、京介とも仲良くしてやってね」 葵を抱き締めながら笑う冬耶は正真正銘の”ブラコン”らしい。葵だけでなく京介のことも心底可愛がっているのはアルバムからも、そして今の口ぶりからもよく伝わってくる。 「それならまずはきちんと授業を受けさせてください。出席日数も成績もギリギリのラインで保っていて逆に器用だとは思いますが」 「うーん、何度言っても嫌みたいなんだよな。今年はあーちゃんとクラス離れたから余計かも」 忍からの落ち着いた切り返しに、冬耶は苦笑いを浮かべた。葵の頭に顎を乗せた彼はどこか緊張感がない。でもそれはきっと弟のことを信頼しているからだと、爽は感じる。 「寂しがりだからね、京ちゃん」 この場に居たら怒り出しそうなことを平気で言う葵も冬耶に負けず劣らず呑気だ。葵と京介、そして冬耶の関係性が少し垣間見えた気がする。 「来月の京ちゃんの誕生日もお祝いしてあげたいな」 「そうだな。また皆で集まろうか」 京介はこうして冬耶と葵のマイペースに巻き込まれてきたのだろう。苦労性でどこか世話焼きな性格の成り立ちに納得がいった。 でも今気になるのは京介の誕生日よりも、この会を開いてくれた葵の誕生日のこと。西名家のアルバムには家族それぞれの誕生日会の写真は挟まれていたが、なぜか葵のものらしき写真は一枚もない。 「「そういえば葵先輩の誕生日は?」」 やはり双子だ。聖も同じことを考えたらしい。声を重ねれば、葵が自分の肩に回った冬耶の腕をぎゅっと掴んだのが見える。話の流れでは不自然なことを聞いたつもりはない。でも部屋の空気が一気にぴりついたのが分かった。 「葵くんは確か夏生まれ、だったよね」 「……はい」 フォローを入れたのは奈央だった。質問への正確な回答ではないが、季節の話題なら不自然ではない。葵もぎこちないながらも笑って頷いている。でもどこか様子がおかしい。 「夏休み中だから皆でお祝いは難しいかな?どうする、あーちゃん。皆に来てもらう?」 冬耶が葵を試すような質問をするのも気になる。葵の誕生日とあれば、今来ているメンツは当然のように集まるだろう。夏休み中だろうが関係がない。 けれど葵は気まずそうに首を横に振って冬耶を見上げた。 「……大丈夫」 それが承諾の答えではないことは明らかだ。 もしかしたら双子が尋ねる以前に忍や櫻、奈央も同じように葵にやんわりと拒絶されたことがあるのかもしれない。彼等が揃って何か触れてはいけない部分に踏み込んでしまった双子を憐れむような目を向けてくるのが印象的だった。 「皆の誕生日お祝いするだけで嬉しいから、大丈夫」 張り詰めた空気を打ち払うように葵がもう一度笑ってみせた。親しくなれたと思ったのに、腕の中からするりと抜けていく感覚がする。 もしかしたら、昔から葵を愛する人は皆こんな感覚に揺さぶられ続けているのかもしれない。 葵が未だに誰の愛情にも応えていない理由が爽は少し、分かった気がした。

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