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act.5三日月サプリ<116>

* * * * * * 住宅街の中で団欒の声はよく響く。笑い声の漏れる一軒家を眺めながら、幸樹は手にした袋をどう処理しようか悩んでいた。 京介から、葵があの日のことを全て思い出したと連絡があった。その上で幸樹に会いたいと言っている、そうも教えてくれた。だから来い、そんな乱暴な言い回しではあったが、幸樹の重たい腰を上げさせるには十分だった。 でも門の前に着いて気がついた。今日の集まりはあまり面識のない、一年の双子の誕生日会だという。だが、幸樹が用意したのは葵への手土産だ。丁寧に一言メッセージまで添えてしまった。そんなものを手にのこのこと訪問するのも馬鹿らしい。 それに、この場で忍や櫻と顔を合わせるのも気まずい。まして、前年度会長の冬耶まで居るとなれば、後で説教されるのは目に見えていた。 ────アカン、やっぱ帰ろ。 踵を返そうとするが、やはり後ろ髪引かれる思いがする。もう二度と葵を傷付けることはしたくなかった。 しばらく悩んだ末に幸樹は、一度は持ち帰ろうとした葵への贈り物を門の取手に引っ掛けることにした。きっと大勢の前で開かれてしまうのだろうが、その場に自分が居なければ恥ずかしさは薄れる。 これであの子が笑顔になってくれるなら安いものだ。 幸樹は改めて西名家に背を向けると元来た道を戻ろうと歩き出した。だが、向かいから洋風の家屋が立ち並ぶ通りには不似合いな出で立ちの少年が向かってくるのが見えて思わず足を止めた。 あちらも幸樹の存在に気が付いたらしい。睨みつけるような視線が返ってくる。 「……よ、元気?」 我ながらアホらしい挨拶だと、幸樹は思う。だがそれ以外に適切な言葉が浮かばなかった。当然のように目の前の彼、都古からは返事が返ってこない。それどころか幸樹の姿を見てくるりと方向転換してしまう。 「ちょ、ちょい待ち。藤沢ちゃんに会いに来たんちゃうの?俺もう帰るから、行ってやって」 慌てて都古を追いかけて横に並び、声を掛ける。始業式の一件で都古に嫌われている自覚はあるが、まさか自分のせいで都古が誕生日会に出席しなかったとなれば責任重大だ。同席しないと伝えて必死に都古を引き止めた。 「来るつもり、なかった」 「え、でも向かってたやん」 「勝手に、来てた」 もう少しで西名家に到着しかけていた都古の言い訳は苦しい。でも頑なに都古はツンとした目を尖らせて反論してくる。だから幸樹は自然に足が動いてここまでやって来ていた、という彼の言い分を飲み込むことにした。

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