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act.5三日月サプリ<120>

* * * * * * 「……で、お前は何がしたかったんだよ」 “荒らす”という宣言とは裏腹に、七瀬は京介の部屋に入るなりベッドに寝そべって枕元にあった雑誌に目を通し始めた。一体何が目的なのか京介にはさっぱり理解できない。 不可思議な沈黙に耐えきれなくなった京介は、綾瀬と共にベッド傍のラグに腰を下ろしながら小さな友人に声を掛けた。 「だってさ、京介っちがあんな怖い顔してたら皆が楽しく交流出来ないでしょ?」 雑誌をぱたりと閉じた七瀬は、さも京介が悪いと言わんばかりに視線を投げかけてきた。確かに双子に抱きつかれたり、忍や櫻にケーキを掬ったフォークを差し出されたり、とことん構われている葵を見て苛立たなかったと言えば嘘になる。 だが、そのせいでこうしてあの場から連れ出されたと言われると腹が立った。冬耶が居るからおかしなことにはならないとは思うものの、今この間にも葵が迫られていると思うと苦い気持ちにさせられる。 「……っていうのはまぁ冗談でさ。都古くん、大丈夫?」 ベッドから体を起こした七瀬はこの場にやって来なかった葵の飼い猫の名を口にした。七瀬に都古を連れて来ることを頼んでいたのだが、失敗したと事前にメールは貰っていた。だが詳しいやり取りは聞けてはいなかった。 「あいつ、なんて言ってた?」 「葵ちゃんのこと待つって、ただそれだけ。補習終わってすぐ葵ちゃんの部屋逃げ込んじゃって、捕まえられなかった」 都古が拒むことはある程度予想はしていたが、それでも葵に会いたい欲を優先すると思っていた。どうやらアテが外れたらしい。 「顔色もいつも以上に悪かったし、藤沢不足は限界かもな」 綾瀬の言う通り、葵と離れて過ごすことが都古にとって随分ストレスの掛かる環境だというのは分かっている。でも都古のために葵を譲るということはどうしても出来ない。都古が受けてきた苦しみを考えれば幸せになってほしいとは思うものの、自分にだって葵が必要だ。手放せない。 「葵ちゃんが分身出来たらいいのにね」 七瀬の発言はあまりに馬鹿馬鹿しいものだったが、それを頭から否定する気にはなれなかった。 室内が静かになると、階下の賑やかな声がよく聞こえてくる。葵が楽しく過ごせるのが一番だ。そう思うのに、自分以外に笑顔を向けることがなかった日々に戻りたいとも京介は願ってしまう。 やり場のない焦燥を吐き出すように息を付けば、綾瀬からは宥めるようにポンと軽く肩を叩かれた。だが、綾瀬の慰めとは裏腹に、七瀬は何か新たな悪戯を思いついたような笑顔を向けてくる。この顔には嫌な覚えしかない。

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