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act.5三日月サプリ<125>

「花束贈るなんてあいつも案外キザなんだね」 「俺ならもっと立派なものを準備してやるが」 櫻や忍は相変わらずの口調ではあるが、その表情に棘は見当たらない。元々生徒会活動に積極的ではなかったとはいえ、幸樹が生徒会に現れなくなったことで、少なくとも二人の負担も増えたはずだ。 葵が原因だと知ったら彼等はどう思うのか。不安は芽生えてしまうが、この連休中に彼等との絆も深めることが出来た。厳しい事を口にする機会も多いが、二人が葵に随分と優しく接してくれていることは身をもって知った。 「俺達、上野先輩とちゃんと喋ったことないから」 「デートする時は合流させてくださいね」 今日それぞれから贈られたプレゼントを手に上機嫌の聖と爽は幸樹とも仲良くしたいと主張してきた。自分の好きな人同士の輪が広がっていくのは嬉しくてたまらない。 七瀬はあれだけ誕生日会でケーキを頬張っていたというのに、幸樹からのプレゼントが”食べ物”だったら良かったのにと我儘を言い出して綾瀬に叱られているが、そのやり取りさえ葵にとっては温かく感じられる。 「葵、行くぞ」 ちっとも門から離れられない葵に痺れを切らした京介には半ば乱暴にキャップを被せられてしまう。サイズは合わないが、どこへ行っても目立つ髪を隠すには十分な役割を果たしてくれる。葵が望む前に与えてくれる優しさは感じるが、くるりと背を向けて駅へと進みだしてしまうところが京介らしい。 「京ちゃん、上野先輩にありがとうって……」 「自分で伝えな。明日は来るんじゃねぇの?」 慌てて京介の後を追えば、そっけないぐらいの返事が返ってくる。でも確かに幸樹に直接伝えたほうがいいだろう。それに歓迎会でのことも面と向かって謝りたい。うまく言葉に出来るかが心配ではあるが、拙くても幸樹はきちんと最後まで聞いてくれる気がした。 西名家から寮に戻る時はどうしても寂しさを感じてしまう。それは冬耶や遥が共に居た時でも同じだった。でもこんなにも大勢で移動していると寂しいと思う暇もないのだと葵は感じた。それに今日が良い日だったと皆が言ってくれると、無理にでも開催して良かったのだと安堵することが出来る。 残る葵の気掛かりはただ一人、都古の存在だった。七瀬は補習で疲れているから来なかったのだと教えてくれたが、都古の性格はよく理解しているつもりだ。来たくなかった、というのが正解なのだろう。談笑に混ざりながらも、葵はどうしても晴れ切らない心を抱えてこっそりと溜息を零した。

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