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act.5三日月サプリ<126>

「……葵くん、重い?持とうか?」 葵の溜息を聞きつけたのか、駅から学園へと向かう歩道を進みながら奈央が小さく尋ねてきてくれた。 クマは自分で持っていけと言った割に、連休中に家で過ごすために持ち帰った着替えや勉強道具を入れたボストンバッグは京介が当たり前のように持ってくれている。葵が手にしているのはクマと、幸樹からのブーケ、そして貴重品だけを入れたショルダーバッグぐらいだ。重さで言えば大したことはない。 だから葵は首を振って奈央の提案を断ってみせる。奈央はそれを受けて無理強いすることなくまた皆の会話の輪に戻ろうとしてくれるが、今度は葵が彼を引き止めた。 「あの、奈央さん」 歓迎会での出来事を謝る相手は幸樹だけではない。自分が幸樹と喧嘩したせいだと誤魔化してくれた奈央に対しても何か言わなければと思っていた。でも誕生日会の合間で奈央と二人で会話する機会に恵まれずにここまで先延ばしになってしまっていた。 「上野先輩のこと、すみませんでした。僕が悪かったのに」 何があったかまでは彼等には知らせていないと、京介は言っていた。だから自らの口であの夜の詳しい出来事を今奈央に打ち明けるのは難しい。こんな風に曖昧な表現で謝ることしか出来ない。 だが奈央はそれすらも深く追及することなく、笑顔を向けてくれる。 「どうして?幸ちゃんのこと叩いて怒ったのは僕だよ」 「……本当に叩いちゃったんですか?」 それすらも奈央の嘘だと思っていたが、どうやら違うらしい。こんな風に、と手振りまで見せて奈央が教えてくれた。 「幸ちゃんは全然痛くなさそうだったけどね。多分僕のほうが痛かったと思う」 付け加えられた言葉で葵は少し安心するが、温厚な奈央が怒った原因こそ自分が関係しているかもしれないと嫌な予感がしてしまう。 「明日から次の行事の準備も始まるし、幸ちゃんにはしっかり働いてもらわないと」 奈央の言う通り、連休が明ければ中間テストや一年生だけの行事が待っている。一段と忙しい日々が始まることは明らかだった。頑張ろう、そう言って笑ってくれる奈央にそれ以上歓迎会の夜の話題を引きずる素振りは見せられなかった。 遊歩道の先にひときわ大きな桜の木が見えてくれば、それは高等部の正門が近付いてきた証拠だ。青々と茂った葉が揺れる姿を見ると、学園に戻ってきたのだと実感が湧く。それに校門の柱に凭れる人影の正体がはっきりと分かってくると余計に葵の足が速まった。 艶のある黒髪と、身に纏った薄い麻の浴衣が風になびく姿は絵になるが、当の本人が眠そうに欠伸を繰り返しているせいで美しい雰囲気を台無しにしている。

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