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act.5三日月サプリ<128>

* * * * * * ほんの少し離れていただけだというのに、どうしてここまで葵が恋しくなるのか。都古は自分でも分からなかった。今も寮のエントランスで生徒会役員や後輩、友人たちと別れを惜しむ葵を見ながら鬱屈とした気分が募っていく。 「……お前、うち来たの?」 自分と同じく、葵が他と交流する姿を見守っていた京介から少し呆れたように声を掛けられ、ようやく都古は葵から視線を外した。彼が手にしていたのは携帯電話。幸樹が京介に連絡を入れたのだということはすぐに予想がついた。 「入ってくりゃ良かったじゃん」 「行くつもり、なかった」 幸樹に対してと同じ言い訳を都古は繰り返した。事実なのだから仕方ない。葵が皆に囲まれて愛される姿など見たくなかった、だから行かないとそう決めたというのにいつのまにか足が勝手に動いていたのだ。 「お前も大概意地っ張りだよな」 京介は苦い顔をしながらも笑ってくるが、”意地っ張り”は京介のほうが似合う言葉だと都古は思う。今も葵や都古に対して保護者らしい態度を貫いてくるが、本心は今すぐ葵をあの輪の中から引っ張り出したいと思っているに違いない。でも言い返せば無駄なやりとりが発生することになる。都古は口を噤んで、また葵へと視線を戻した。それでもまだ京介は都古に話しかけ続けてくる。 「あいつさ、今日医者と会ってきたから」 「……医者?なんで?」 「カウンセリング、つーの?歓迎会の時のこと思い出したいって自分で言い出したから連れてった」 葵が生死の境を彷徨った夜の話となれば、都古はそっぽを向き続けるわけにはいかなかった。その成り行きが気になって京介へともう一度視線を投げかければ、彼は案外穏やかな表情をしていた。 「アオ、平気?」 「動揺はしてたけど、そこまで取り乱しはしなかった。多分医者と相性が良かったんだと思う」 葵が病院を苦手にしているのは本人からも京介からも聞いたことがあった。そんな葵が心を開けたのだから、京介の言う通り”相性”の問題なのだろう。葵が頼れる存在を見つけられたことに安堵する反面、自分の力不足を感じて不甲斐ない気持ちにもさせられる。 だが、京介から続けられた言葉は都古の気持ちを察しての励ましでも、すぐにヤキモチを焼きがちな都古への呆れでもなかった。

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