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act.5三日月サプリ<131>

「全部僕になったら他のものが入らなくなっちゃうよ」 「それでいい。それが、いい」 「……そっか」 葵の腕の中でちらりと視線を上げれば、彼は少しだけ悲しそうな顔をして都古を見つめ返してきた。葵が都古を輪に入れようと心を砕いていることは自覚している。それでも葵以外に心を惑わされたくなどないのだ。 「アオ、いっぱいにして」 抽象的なこんな願望にも葵はもたれ掛かる都古の頭を抱く腕を強め、応えようとしてくれる。だがそれだけでは足りそうもない。 「命令、は?」 「またそういうこと言う」 「じゃ、ご褒美」 葵の腰を引き寄せてねだれば、ぺしんと軽く額を弾き返されてしまう。鈍い葵でも都古が何を望んでいるかはいい加減理解してくれるようだ。だが分かっていながら与えてくれないのは都古にとって意地悪でしかない。 「頑張ったのに」 「それは知ってる。七ちゃんからも聞いたよ。でももうちょっと違うものじゃダメなの?」 「ダメ、やだ」 この場には葵以外誰も居ない。だから恥ずかしげもなくめいっぱい葵に甘えることが出来るのだ。拗ねたように葵の膝に寝転がると、見下ろしてくる葵の瞳が困ったように揺れるのが分かる。自分にはとことん甘い主人はもうひと押しすれば落ちてくれるだろう。 「寂しかった、アオ」 「うん、ごめんね」 空に輝き出した月と同じ色をした葵の髪に手を伸ばせば、触れる前に捕らえられた。そしてまだうっすらと傷痕が残る都古の手の甲にそっと葵の唇が落とされる。確かに欲しかったキスではあるが、まだちっとも満たされない。 でも都古がもう一度口を開きかけるよりも先に、葵が都古の手に指を絡めたまま言葉を続けた。 「皆、みゃーちゃんのこと大好きだよ」 葵が一体誰のことを”皆”と表現しているのか、わざわざ尋ねなくとも予想ぐらいはつく。だが大方平和主義な葵の勘違いだと都古は思う。それに、”皆”からの好きなど必要としていない。 「欲しいのは、アオの”好き”、だけ」 自分の闇色の目とは対照的な目を見つめ返すと、葵は惑いと照れの入り混じった複雑な色を浮かべてみせた。 「頂戴、アオ」 繋いだ指に力を込めれば少しの沈黙の後、葵はゆっくりと屈んで都古の額へと口付けてきた。手の甲よりは進歩しているがまだほど遠い。 「好きだよ、みゃーちゃんのこと。大好き」 葵は都古の心を満たすために言葉でも補ってくれるが、足りそうもない。少し火照ったように赤らむ葵の頬に触れながら、都古は我儘を続けた。

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