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act.5三日月サプリ<135>

「冬耶さんより幸ちゃんと仲良くなれるほうがすごいと思うけどな」 「幸樹?あぁ……でもあいつとは仲良いっつーか、よく分かんねぇ感じ」 愛想がよく誰にでも分け隔てなく接する冬耶に比べて、幸樹と親しくなるほうが難易度は高いはず。奈央はそう思うのだが、京介は素直に仲が良いとは認めない。どこか照れを感じる表情で頭を掻いて奈央から視線を逸らした。 「俺よりも高山さんが幸樹と仲良いほうが不思議」 「それはよく言われるかも。でも幸ちゃんとは結構似た所あるんだよね」 「高山さんとあいつが?」 信じられないと言いたげな視線を向けてくるが、大袈裟な表現ではなく、本当に奈央は自分と幸樹に似た部分を感じていた。 「幸ちゃんも僕も、お互い学園に馴染もうとしていなかったから。で、それを変えてくれたのが生徒会の存在っていうのも共通項かな?」 以前の奈央ならこんな風に自分自身のことを飾らずに表現することすら避けてきていたが、冬耶に振り回される内に随分と自然に振る舞えるようになっていた。 「へぇ……じゃあ今の生徒会ってどっか似たような奴が集まってんのな」 京介はどこか納得したように目を薄め、そしてまた視線をエントランスのガラスの向こうへと移した。姿は見えないけれど、その先にいる存在もまた、学園に馴染めていなかった内の一人だ。 明言してはいないが、忍や櫻も元々生徒会に属するような性質の生徒ではなかった。京介に言われるまで自分達が似ているだなんて考えたことはなかったが、確かに現役の役員はどこか学園生活に難があった生徒の集まりかもしれない。 「だから葵は生徒会が居心地いいのかもな」 それは奈央に対して聞かせるためというより、単なる独り言のような呟きだった。けれど、奈央にとっては聞き逃せない言葉だ。 「葵くんにとって、”居心地のいい”空間に出来てるのかな?」 「え?あぁ……そうじゃなきゃ、兄貴と遥さんが卒業した時点で、葵は役員辞めてただろうし、俺も辞めさせてたと思う」 京介は当たり前のようにそう返事をしてくれるが、それでも奈央の胸には不安が残っていた。だがそれを打ち払うように京介が言葉を続けた。 「まぁあいつが生徒会残ったのって高山さんの存在がでかいだろうけど」 意外な言葉の真意を探るように奈央は京介に視線を向けたが、彼にとっては何気ない発言だったらしい。変わらずぼんやりとエントランスの外を見つめたまま。

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