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act.5三日月サプリ<136>

「来年はあいつ、どうすんだろ」 「……来年、か」 京介が次年度も葵が生徒会に残れるのか、危惧するのも無理はない。自分達が卒業した後のことを考えるのは少し気が早い気もするが、奈央達三年の中でも話題になり始めていることだった。 「でも絹川くん達が役員やりたいって言ってくれてるから僕は少し安心したよ」 「それはそれで厄介なんだよな」 奈央は京介の不安を拭うように双子の名を口にしてみたが、それはただでさえ眉間に皺が寄りがちな京介の顔を更にしかめさせてしまう。 「西名くんが生徒会入るのは?」 「……俺?いや、どう見てもガラじゃねぇじゃん」 否定されるのは分かりきってはいたが、やはり京介は奈央の提案へ自嘲気味な返事を戻してきた。でも奈央は冗談で言ったつもりはない。確かに派手な見た目も、授業をサボりがちな素行も生徒会には向かないが、面倒見の良さは役員に適しているかもしれない。そう思ったのだ。 「葵には俺が居ない場所もあったほうがいいだろうし」 そう言って京介は口を噤んでしまった。彼が気を悪くしたのかと奈央は少し焦りを感じたが、表情を見る限り、そんな気配は感じない。だが、何かを思案するような顔つきをする彼にはそれ以上の声を掛け難い。 幼い頃から葵の傍に居た京介があえて”離れる”という選択をすることはそう簡単ではなかったのだと容易に想像が出来る。学園の輪に入れなかった葵を生徒会に引き込んだ冬耶と遥。彼らの選択を、京介なりに後押ししようと考えた結果なのだろう。 葵を取り巻く彼らの想いを考えると余計に、生徒会という空間を葵のためにも守り続けてやりたいという気持ちが奈央の中で強くなる。 「……帰ってきた」 しばらくの沈黙を打ち破ったのは京介だった。その言葉につられて奈央も外を見やれば、寄り添って並ぶ葵と都古の姿が近付いてくる。都古の表情はここを出ていった時よりは随分と穏やかに見えた。だが、待ち構えている京介と、そして奈央の姿を認識してしまうと急に顔が強張ってしまう。 「京ちゃん、ここで待ってくれてたんだね。奈央さんまで、ごめんなさい」 ガラス扉を開けてやってきた葵は、一気に足取りの重くなった都古の手を引き、率先して京介と奈央の元へ歩み寄ってくる。分かりやすく俯いて視線を合わせようとしない都古を庇うように前に立つ葵は、いつもよりも少し大人びて見えた。

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