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act.5三日月サプリ<137>
「ケーキいっぱい食べたからまだお腹空いてないんだけど……何時に夜ご飯食べる?」
さも当たり前のことのように葵が京介に投げかけるが、都古は相変わらず不機嫌さを隠しもしないし、京介はそれを見て複雑そうな顔をしてしまう。とはいえ、奈央が口を挟んでフォローするのは筋ではないだろう。
「いや、今日は飯外で食ってくる」
「……どうして?」
「約束してるから。じゃあな」
葵に訝しげな目を向けられても京介は頑なに誘いには乗らなかった。それどころか葵へと預かっていた荷物を差し出し、そのままあっさりと出て行こうとしてしまう。葵は何か言いたげに口を開きかけたが、それを遮ったのは都古だった。
「京介」
呼び止める声音は棘を含んでいた。都古が和解を求めているとは到底思えない。やはりこの場に留まらないほうが良かったのかもしれないと、奈央は少し前の自分の行動を後悔し始めていた。
「アオに、風邪、引かせた?」
「風邪?なに、お前具合わりーの?」
都古の言葉を受けて京介は慌てたように葵へと視線を落とした。傍に控える奈央もまた、葵を見やった。
言われてみれば確かに頬が上気しているように見えるし、目元もぼんやりと潤んでいる。だが、あくまで指摘されて初めて気が付くレベルだ。京介が気付けなかったことを、奈央が察することは難しかっただろう。
「ちょっと熱あるだけ。大丈夫だよ」
「お前なんで言わねぇの?いつから?」
「アオ、責めんな」
熱を確かめるために頬に触れようとする京介の手を遮って、都古が声を張った。京介から離すように都古が葵を抱きしめることで、また空気が嫌な色に変化していく。
「京介が、引かせたくせに」
「は?……あぁ、そっか」
都古の口ぶりに京介は、一度は否定しかけたものの、思い当たる節があるらしい。葵へと伸ばした手を引っ込めて気まずそうに髪をかき上げた。
「つーかお前、昨日のこと都古に言ったわけ?」
「……お風呂一緒に入ってそのまま寝ちゃったって」
「あっそ。まぁいいや」
葵の返答には満足しなかった様子の京介は苛立ったようにそう言い捨てて今度こそ背を向けて歩きだしてしまった。
察するに、恐らく葵の言葉通りの健全な夜を過ごしただけではないのだろう。だから都古は怒っていて、そして京介も二人のプライベートを暴かれたようで不愉快な顔をしていたのだと、奈央は予想をつけた。だがそれがわかった所で、一人残された奈央は余計にいたたまれない。
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