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act.5三日月サプリ<141>

それから数曲、思い付く限りの曲を弾いてみるが何なら葵が喜んでくれるのか、ちっとも検討がつかない。しばらくそうして爽がギターを手に苦戦していると、少し乱暴なくらい大きなノックの音が響いた。 いつもはノックなどせずに飛び込んでくるというのに、爽がギターを弾いていると察してこうしたアピールをしてくるのだろう。一応は爽も聖が近くにいる時はアンプには繋がず極力音がでないよう配慮しているのだが、弦をかき鳴らす音はそれなりに響いてしまうらしい。 ギターをスタンドへと戻した爽がドアを開ければ、少しムスッとした聖が待ち構えていた。明言はしないものの、爽が一人趣味を楽しんでいることを苛立っているようだった。 「何書いてあった?葵先輩からのカード」 「……なんで教えなきゃいけないんだよ」 よくよく見れば聖の手には、爽のものと同じ、空色のカードが握られている。すぐに爽は拒んだものの、彼の意図は分かりきっていた。大方、メッセージの長さに違いがあるかを知りたいのだろう。 「そういうのは見せ合うもんじゃないっしょ」 「じゃあ爽は俺の気にならないわけ?」 「……そりゃ気になるけど」 一体葵が聖にどんな言葉を贈ったのかは確かに興味がある。でも聖のカードを見ることは、自分のカードを見せることとイコールだ。 爽がギターを始めたことに苛立ちを隠しもしない聖にこんなメッセージを見せてしまえば、火に油を注ぐことは明らかだ。 「自分だけの宝物にするんだから。聖だって見せたくはないでしょ?」 「……でも爽のは見たい」 「やだって。とにかく見せんのは無し」 兄の我儘をはっきりと断れば、聖はあからさまに頬を含まらせて拗ねてみせた。 「共闘しようって言ったじゃん」 「それはそれ。これはこれ。聖とは一緒に戦うけど、聖と”セット”で好かれたいわけじゃないし」 微妙なニュアンスの違いをうまく説明するのは難しいが、それぞれ一人の男として葵に愛され、その上で二人共を選んでほしいのだ。聖と二人でないと愛してもらえないような関係は築きたくない。 「爽は最近、俺のほうがお兄ちゃんってことを忘れがちだと思うんだけど」 「お兄ちゃんって言ってもたった三十分の差だしね」 「なんか生意気。爽っぽくない」 聖はつまらなそうに言ってのけると、勝手に爽の部屋に侵入し、ベッドを占領し始めた。それが尚更子供っぽい仕草に見えてしまう。

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