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act.5三日月サプリ<142>

聖の言う通り、確かに歓迎会で聖と喧嘩をしてから彼の背中を追うだけでなく、自分なりの強みを見つけようと考え始めてから少し、爽の意識は変化した。恐らく聖もそれに薄々気が付いているから、爽が始めたギターを頑なに拒絶してみせるのだろう。 「なぁ聖」 「んー?」 そのまま勝手に枕元に置いていた雑誌に目を通し始めた聖へ、爽は並ぶように寝そべりながら声を掛ける。 「生徒会、本気で目指すの?」 「超本気だけど。葵先輩と居る時間増やしたいもん。ダメ?」 やはりやる気に満ちている様子の聖へ、なんと告げたらよいか分からず、爽は枕代わりに並べたクッションに頭を預けた。 ────それが聖の本当にやりたいことならいいけど。 爽は浮かんだ言葉を口に出すことなく押し殺した。葵の傍に居たい、そのために役員になりたい。そう願う気持ちに嘘偽りはないとは思うが、邪な気持ちだけでこなせる仕事ではないだろう。 「んで、葵先輩と同じ大学行く」 「大学?付属に進学するの?それとも他大?」 「さぁ、それはまだ聞いてない」 いつだって爽を引っ張ってくれた兄らしくない。葵と同じならどこでも良いと本気で思っていそうだ。ただ葵を追いかけても、一年の年の差は埋まらないというのに兄は少し冷静さを失ってしまっている。 だが、自分と同じ顔がどこか寂しげに見えるから彼を責めるようなことは言えそうもない。 「あと一ヶ月ちょっと早く生まれてたら同じ学年になれたのに」 雑誌にも飽きたのか、ごろりと横になった聖は本音を吐露してくる。それにも何と返事をしてやればいいか悩んだ爽はただ静かに隣に居ることを選んだ。 だが腕に嵌めたままのお揃いのブレスレットをいじっている聖の瞼が少しずつ重たくなっていく様子に気が付けば、さすがに黙っていることは出来ない。 「ここで寝るなよ、聖」 「……んー、大丈夫」 「大丈夫じゃないじゃん。寝るんなら自分の部屋行けよもう」 爽は慌てて眠りに落ちそうになっている聖の肩を揺さぶってみるが、”大丈夫”と繰り返すだけでちっとも動こうとしない。こうなってしまったら寝かせるしか解決方法はなかった。 「兄らしくしろよ、聖」 仕方なくベッドを譲ることを選んだ爽はすっかり寝息をつきはじめた聖に悪態をついてみるが、返事はとうに戻ってこなかった。 そのまま先にシャワーを浴びた爽がもう一度自室を覗くと、聖は爽のベッドにしっかりと潜り込んでしまっていた。この調子では朝まで起きないかもしれない。双子といえどさすがに朝まで寄り添って寝る気にはなれず、爽はお返しに聖の部屋を陣取ることに決めた。

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