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act.5三日月サプリ<144>

* * * * * * 世話焼きな京介が居るとつい彼に甘えてしまうけれど、居ないとなれば都古のためにもしっかりしなければならない。葵はその覚悟で都古を自室に連れ帰ったのだが、今夜は少し様子が違った。 「そんなに厚着しなくても大丈夫だよ?」 「ダメ」 湯上がりで火照る体ではパジャマですら暑いというのに、都古は問答無用でブランケットを羽織らせてくる。熱が出ている状態がそれほど心配なのだろう。 部屋に戻ってから都古がやけに過保護だ。べったりとくっついてくるのは相変わらずだが、過剰なまでのスキンシップを控える代わりに甲斐甲斐しく動こうとしてくれる。 お風呂ではいつものように全身にキスを仕掛けてくることがなかったどころか、必要以上に触れてくることは一度もなかった。それに浴室を出るなりすぐ、京介の二の舞いは踏まないとばかりに葵の髪をきっちりと乾かしてくれる。おまけに移動は全て都古の腕の中という徹底ぶり。 ありがたい反面、風邪を引いたせいで都古が甘える隙を奪ってしまったことが申し訳なくなってくる。とはいえ、忠実な下僕然と振る舞いたがる都古をたしなめればそれこそ傷付けてしまいそうだ。 「ありがと、みゃーちゃん」 大事にベッドまで運んでくれた都古への礼を口にすれば、冷たい印象を与える切れ長の目が柔らかく薄められた。 「アオと、寝れる。幸せ」 自らが布団代わりかのように覆いかぶさってくる都古がそんなことを言うから、”風邪が伝染る”なんて理由で彼を追いやることは出来なくなってしまう。葵からも都古を抱きしめるように手を伸ばせば、ますます彼の表情が綻んだ。 「補習、頑張ったね。お疲れ様」 いつもは高く結んでいる都古の髪は、今はさらりと肩口に下ろされている。その髪を毛先まで丁寧に撫でながら言葉でも彼を労ってやると、嬉しそうにぐりぐりと葵の首筋に頬を寄せてくる。葵は都古のこうした可愛い一面をもっと皆にも知ってほしいと思うのだが、彼自身がそれを望まないのだから難しい。 そのままキスへと移行するのはある意味自然な流れだったのかもしれない。壊れ物でも扱うかのように優しく唇を落としてくる都古を受け入れるという選択肢以外、葵にはなかった。

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