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act.5三日月サプリ<145>

一緒に風呂に入ったというのに、都古の薄い唇はどこかひんやりとしている。火照った体には心地よい。 目元から頬へ、首筋から肩口まで、啄むように与えられるキスは一つ一つに込められた愛を感じて甘ったるい。でも彼が触れてくるのはそこまで。線の細い指先も、ただ緩やかに葵の髪を梳くだけ。いつもは葵がダメと叱っても”甘えている”という主張を盾に自由に体を暴いてくるのに不思議だ。 「……ン、みゃ、ちゃん」 「眠い?」 「そうじゃなくて」 何を告げたら良いのか分からないまま都古の唇を遮ってしまったことにチクリと胸が痛む。 “好きだから触れたい” この言葉を忍から告げられて以降、時折魔法のように葵の心を支配してくる。今もそうだ。甘えん坊なくせに精一杯葵を気遣ってくる都古が無性に恋しくて堪らない。 だがそれを言葉として現す術を持たない葵はただ、上体をわずかに起こして都古の唇に己のそれを重ねてみせる。 「ア、オ……え?」 葵からの急なキスは相当都古を驚かせてしまったようだ。目を丸くして、感触を確かめるように自らの唇を指先で辿る仕草すら可愛くみえてくる。 「へへ、なんかしたいなって思って」 素直に衝動を伝えると、都古が葵をベッドに押し付けるようにぎゅっと力強く抱き締めてきた。 「アオ、それ反則。せっかく、我慢したのに」 恨めしそうな声が降ってきたかと思えば、すぐに唇が奪われた。さっきまでの生温いキスではない。いつも通り、いや、いつも以上に性急に唇が割られ、舌が潜り込んでくる。 「…ふッ…んん……」 「アオ…好き」 都古の唇の角度が変わる隙に懸命に空気を取り込もうとすると、それすら支配するかのように強く覆いかぶされてしまう。だが都古も余裕はないらしい。彼からも熱い吐息が聞こえてくると、それだけでギュッと胸が切なくなる。 「もう少し、していい?」 彼はそう尋ねてくるが、自分で問い掛けたくせにもし葵が終わりを告げたら泣き出してしまいそうな顔をしている。この顔を前にダメなんて言えるはずがない。 「……風邪引いても知らないよ」 「俺に、うつして」 やはり都古の考えることは葵の予想の斜め上を行く。葵の風邪を貰おうとするように顔中にキスを降らせてくる都古からはふざけているような気配は感じられない。 額やこめかみ、目尻や鼻先までちゅっと音を立ててキスしてくる都古と目が合うと、彼は葵だけに見せる優しい表情で口角を上げる。それがまた葵を切なくさせた。 苦しいわけでも悲しいわけでもない。むしろこの時間を温かいものだと感じているのにどうしてチクチクと胸が痛むのか。都古の唇が触れるたびに、身体中が痺れたように震えるのか。

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