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act.5三日月サプリ<148>*

「ほら、付いた」 「本当だ。チュってしたらすぐ付くの?」 「やってみる?」 興味深く自分の腕を見つめていると、都古からそんな提案がもたらされた。言葉だけでなく、都古は葵の腰に手を回すと抱き上げるようにして体勢を逆転させてしまった。 「重くない?」 「平気」 都古の腹の上に跨るような姿勢は居心地が悪いが、彼はむしろ嬉しそうに葵を見上げてくる。 「やるって……どうすればいい?」 「好きなとこ、付けて」 どうぞ、と言わんばかりに体を差し出されても葵は困ってしまう。ただ興味本位で尋ねたことがこんな事態に発展するとは思わなかったのだ。 同じ色白でも葵と都古では少し肌の色味が異なる。どこか淡い桃色がかった肌をする葵とは違い、都古は青白いという表現のほうが似合う。葵以上に痕が目立ってしまいそうだ。 そうして都古の肌を観察していると、催促するように腰が撫でられる。一度言い出したら聞かない彼のことだ。葵が試すまでは我儘を言い続けるだろう。とはいえ、自ら都古の体にキスするなど、妙な気恥ずかしさがあってなかなか踏ん切りがつかない。 「じゃ、アオ。ここ」 とうとう痺れを切らした都古から場所の指定をしてきた。彼が細い指で示したのは自身の首元。いつも髪を結っている彼の首は常に外気に晒されている。目立つに違いない。 「アオの印、つけて」 「……でも」 「ご褒美、これでいい」 だから早く、そう都古が訴えてくればもうそれ以上先延ばしにすることは出来なかった。一体これのどこが彼にとって”ご褒美”になるのかも疑問だが、いつもの”ご褒美”よりは恥ずかしさの度合いでは随分とマシである。 都古の肩に手を置き、そっと上体を倒して彼の首筋に口付ける。だが先程都古が見せてくれた手本のように軽いリップ音を立てて唇を離してみても、何の痕も残らない。 「付いた?」 本当は一度きりで終わらせたいほど、ドクドクと心臓が痛いほど鼓動を始めている。でもすぐにバレる嘘が付けるほどの度胸はない。都古の問いに首を横に振ると、彼はやはり”もう一度”とねだってきた。 そうして二度目、三度目と繰り返させられてようやく、桜色の痕が肌に浮かんでくれた。葵自身の体に広がる痕の濃さと比べると、すぐに消えてしまうことが簡単に予想は付く。

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