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act.5三日月サプリ<150>

* * * * * * 「出て来たのまずいんちゃう?」 「……まぁな」 急に呼び出せば、その理由を話さざるをえないことを京介は覚悟していた。案の定経緯を打ち明ければ、目の前の幸樹はケラケラと笑ってくる。 自分でも情けない限りだ。不用意な発言で都古を傷付け、素直に謝罪も出来ずに逃げ出してきたようなものだ。そのまま帰るに帰れず、学園からそれほど遠くない繁華街で幸樹を呼び出し、時間を潰すのに付き合ってもらっているのだ。 幸樹と居ると高い身長とガタイのせいで、高校生どころか未成年にも見られない。それを良いことに、目の前の彼はジョッキに注がれたビールを躊躇いもなく呷っていく。葵と約束したからと煙草は極力控えているようだが酒は遠慮するつもりはないらしい。 「都古のことは葵に任せときゃ良かった。俺が出る幕じゃねぇよな」 「友達思いやなぁ」 茶化すように幸樹が相槌を打ってくるが、都古に通院を進めたのはそんな純粋な気持ちだけではない。 卒業後の進路を考える時ですら、葵は都古の存在を気に掛けている。都古が葵に依存しきっている状態を少しでも改善しなくては、葵を手に入れるのに苦労するのは目に見えていた。 とはいえ、それは京介の勝手な願望だ。都古のあの反応を見れば、まだ彼の傷はちっとも癒えていないらしい。 「あの子ってまだ家帰ってないん?」 「あぁ、俺の知る限りは一度もな」 「寮来たのが去年の秋だっけ?半年以上経つんか」 つまみとして頼んだ刺し身を頬張る幸樹の口調は呑気だが、半年という時間の経過は京介にとっては重たい事実だった。 「まぁ自分とセックスしたがる家族のとこになんか帰りたないわな」 「幸樹」 ストレートに表現したことを咎めるように名を呼べば、彼は”すまん”とだけ言って肩をすくめてみせた。 幸樹にとっては想像も出来ないことだからこそ、どうしても他人事のような話し方になってしまうのだろう。だがそれは京介も同じだ。だから都古を意図せずに傷付けてしまう。 都古が寮にやってきた経緯を正確に把握しているのは西名家と遥だけだ。けれど、当時から生徒会に属していた幸樹や奈央も少なからず事情を察する立場にいたし、何より学園内には都古に纏わる噂が飛び交っている。それがどれも真相に近いものだから厄介だ。 思えばそうした環境は都古にとっては針のむしろのようなものかもしれない。今後の生活を配慮して転校するという選択肢も与えた冬耶に対し、都古自身が葵の傍に居ること、すなわち学園に残ることを選んだのだ。彼の決断はやはり京介には自分の事と置き換えて想像することなど出来なかった。

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