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act.5三日月サプリ<152>
「京介、そのうち殺されるんちゃう?藤沢ちゃんに手出しまくってるやろ」
「……いや、都古に言われたくねぇわ」
京介だって鈍いわけではない。あの猫が普段どれだけ葵の肌に触れているか、よく分かっているつもりだ。そしてそういう方面に疎い葵は、そんな都古を疑問も持たずに受け入れてしまっている。
そこまで考えて京介は気が付いた。幸樹に言わなければならないことがあったのだ。
「つーかお前、葵の体洗ったって?聞いてねぇんだけど」
昨晩葵から聞き出した情報の中には幸樹がしでかしたことも含まれていた。保険医に騙さかけた葵を助けたのはありがたいが、彼が葵の体を洗う必要は皆無だ。
「あら、バレちゃった?」
「てめぇ次やったら殺すぞ」
「きゃーこわい……あ、お姉さん生追加で」
店員にもう一杯ビールを追加するあたり、幸樹に反省の色は全く見えない。少し前まで、あの湖での出来事を気にして落ち込んでいたのが嘘のようだ。
でも思わずおしぼりを彼の顔面に投げつければ、また大きな口で笑い返してくる。
「京介、安心しぃ。確かに触ったけど、脱がせてないし、見てもないわ」
「どっちかっつーと、触られるほうがムカつくんだけど」
ちっとも安心しないと言い返せば、彼はやはり笑い出してくる。本当に厄介な友人だ。
「自分もエロいことしといてそれは無いわ、京介。説得力ないで」
「……るせぇな、わかってるよ」
「皆西名さんに怒られるんなら納得すると思うけどな」
「兄貴は怒るどころじゃ済まねぇよ」
葵が周りに手を出されていると知ったら、冬耶はきっと発狂するに違いない。想像しただけで恐ろしい。とはいえ、健康な高校生に禁欲しろというのも酷な話だ。
冬耶は葵を抱き締めて眠っても何も感じないのだろうか。我が兄ながら謎が多い。
「せや、西名さんで思い出した」
あまり想像もしたくない兄の性事情をぼんやりと思い浮かべていると、今度は幸樹からおしぼりが投げ返された。普段は躱せるその攻撃も、不意打ちのせいであっさりと顔面から食らってしまう。
「ったく、なんだよ」
「若葉、藤沢ちゃんと奈央ちゃんに興味持っちゃったわ。西名さんに言っといて」
「言っといてって、お前な」
そんなざっくりとした話でどう冬耶に伝えろというのか。しかも自分から提案したくせに幸樹は”やっぱいい”と発言をすぐに撤回し始めた。
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