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act.5三日月サプリ<153>

「若葉の目的わかんないまんま西名さん投入したら余計こじれそうや」 「人の兄貴を兵器みたいな言い方すんなよ」 「最終兵器やん」 そう言って彼はまた笑い声を上げる。 冬耶と若葉の確執は根深い。若葉が葵や奈央に興味を持つのも大方冬耶が原因だろう。幸樹の言う通り、ただでさえ心配性な兄を煽るようなことを伝えれば面倒な事態になることは避けられない。 それに、安易に兄に助けを求めることは京介のプライドが許さなかった。 「藤沢ちゃんのことは二人で守ったったらええやん」 「二人って、兄貴と?」 「ちゃうわ、都古ちゃんと。せやから仲直りせんと」 結局幸樹はそれが言いたかったらしい。アルコールのせいで頬を少し赤らめているけれど、彼は真っ直ぐに京介を見据えてくる。 「別に、喧嘩はしてない」 思わず反論すると幸樹は呆れたようにまたジョッキを傾け始めるが、決して強がっているわけではない。 このぐらいの揉め事は実はそれほど珍しいことではなかった。大抵は都古の我儘が原因だが、今回は京介が悪かっただけのこと。きっと葵は明日顔を合わせればいつも通り京介の手を取ってくれるだろう。そして都古はそんな葵に黙って従うだけだ。 「俺が本気で怒ってるかどうかなんて、あいつは分かるはずだし」 本音を漏らすと、幸樹は一瞬動きを止めて驚いたような顔をした後、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてくる。 「なんだよ」 「いやぁ、そっかぁ、へぇ」 「だから、言いたいことあんなら言えよ」 含みのある言い方を繰り返す幸樹に苛立って思わず拳に力を込めれば、彼はニヤけた顔をそのままに京介の胸を抉るようなことを言ってのけた。 「京介って藤沢ちゃんに甘えてるんやなぁって」 「……は?俺が?葵に?」 葵が京介に甘えている。それはどう贔屓目に見ても明らかな事実だろう。葵本人も自覚しているし、京介も自分の特権とばかりに受け入れてきていた。だが幸樹が指摘したのは真逆のこと。

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