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act.5三日月サプリ<156>

「そいつはもう一つミスを犯した。届けるべき部屋を間違えたんだ。つまり、俺の部屋へ届けてきた。俺宛の荷物と共に。だから疑いもせず、一度これを開封してしまった」 学園の王らしく、いつもどこか偉そうな彼が珍しく狼狽している。スタッフのしでかしたこととはいえ、葵宛の荷物を開封したことで葵に嫌われるのが余程不安なのだろう。 ただ、葵はそんなことで怒るような性格ではない。先輩相手なら尚更だ。忍の反応はいささか大袈裟すぎる。だがその都古の疑問にも、忍は答えてくれた。 「これは相良さんからの贈り物だ」 「……あぁ」 それなら葵は、怒る、というより悲しむかもしれない。都古はようやく忍の行動に合点がいった。 葵は遥が好きで好きで仕方ない。そんな遥が渡仏して以降、電話はおろか手紙すらもやりとりしていない状態で葵が随分と寂しさを募らせていることは周知の事実だ。彼からようやく届いたプレゼントを先に開封してしまったのがもし都古だったとしたら。確かに素直に打ち明け、謝罪するのには勇気がいるはずだ。 だが、忍はそこまで言って暫く悩む素振りを見せた後、都古へと差し出し続けていた包みを引っ込めてしまう。 「……いや、やはりきちんと本人に謝るのが筋だろう。カラス、お前には悪いが会わせてもらう」 葵相手には誠実で居たいのだろう。多数の相手と関係を持っていた忍のことを都古は恋敵として認めてはいないが、葵に対する想いが真摯であることは確かなようだ。 とはいえ、せっかく葵との二人きりの時間を彼に邪魔されるのは癪だ。 「もう、寝てる」 「もう?早すぎないか?」 「熱、出たから」 追い払おうとする都古に当然のように忍は疑わしそうな視線を向けてくる。だが、都古が買ってきたスポーツドリンクやレトルトのお粥を見せつければ、諦めたように包みを再度手渡してきた。 「今葵には西名が付き添ってるのか?」 忍から奪うように包みを預かり、背を向けた都古に彼は尚声を掛けてくる。 「……違う、一人」 「なんだ、まだ揉めたままなのか。葵を不安にさせるなよ」 そんなことは忍に言われなくとも分かっている。けれど、一応は葵を通じて謝罪をしてきた京介相手に突っかかったのは都古だ。原因は京介だが、こじれさせたのは都古だという自負はある。 だから都古はこれ以上忍に説かれる前に今度こそ足早に廊下を進むことにした。忍はそれを追いかけてくるような無様な真似はしない。 “また明日” まるで親しい仲のように、それだけ告げて彼もまた廊下を引き戻していく気配が分かる。

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