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act.5三日月サプリ<158>

「本当だ、遥さんの字だ」 包みから取り出した手紙の筆跡を見てようやく葵も心から安堵したようだ。目元に涙を滲ませるほど嬉しそうな姿を見ると、嫉妬よりもただ微笑ましい気持ちにさせられる。 渡仏して以来葵に一切のコンタクトを取らない親友のことを冬耶はたまに”冷徹”だとぼやいていたが、遥は彼なりの愛情を葵に注いでいる。こうしてメッセージを送ってきたのもただの気まぐれではなく、きっと冬耶から歓迎会でのことや、藤沢家からの接触のことを聞いて放っておけなくなったのだろう。 「みゃーちゃんのことも書いてあるよ」 葵がそう言って見せてくれたカードには確かに都古のことも書いてあった。 ”都古はいい子にしてる?” ただ一言ではあるが、彼もまた遠い海の向こうで都古を気に掛けているようだった。どうして放っておいてくれないのだろう。そんな疑問を感じるほど周囲はお節介だ。 それに葵のことだけを構ってあげない所も遥らしい。でも葵は全く意に介さず、純粋に遥からの贈り物を喜んでいるようだった。 小包の中には遥からの手紙だけでなく、フランスで購入したらしい葵への土産も詰められていた。フランスの風景を収めたフォトカードのセットというシンプルなものだが、一ヶ月お預けを食らっていた葵には随分と贅沢なプレゼントになるようだ。 フォトカードをじっくりと眺める葵に嫌な気分を蒸し返すような真似をするのは気が引ける。それでも、都古は怯えた様子を見せた葵をそのままにしておくことは出来なかった。 「それ、誰からだと、思った?」 「……え?誰からって?」 「怖がってた」 手を止めた葵は、都古の問いに対して困ったような顔をしてみせる。それはこのまま誤魔化そうとするか、打ち明けるかを悩んでいるようにも思えた。 「俺のこと、信じられない?」 葵の膝の上に頭を預けたまま見上げて問えば、葵はすぐさま首を横に振ってくれる。そして少し唇を噛んだ後、ゆっくりと秘密を吐き出した。 「前にね、知らない人から手紙来たことあったから、またその人かなって」 「……どんな、手紙?」 「あんまり覚えてない」 葵の返答は曖昧だ。都古の視線から逃れるように伏し目がちになるのだから、真実ではないのだろう。このまま問い正すことは簡単だが、葵が自ら進んで相談してくれなければ意味がない。 都古は今それ以上の深追いするのは諦め、葵の膝から退いた。都古が”ご飯食べよう”、そう言って話題を変えると葵がホッとした顔をするのがわかる。

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