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act.5三日月サプリ<159>

食事の間、葵は沢山の話を都古に聞かせてくれた。 冬耶、奈央と三人でランチをしたこと。京介や綾瀬、七瀬と水族館に行ったこと。櫻とジェラートを食べたこと。忍の家がとても大きかったこと。聖や爽とボートに乗ったこと。そして皆で過ごした誕生日会のこと。 自分以外と楽しく過ごした思い出を聞くのは胸が苦しくもなるが、葵は補習漬けだった都古に自慢をしているわけではないし、まして妬かせようなんて打算があるわけでもない。 都古が少しでも彼らに親しみを感じて好きになれるように。葵のそんな気遣いであることは都古も理解している。 葵以外からの歩み寄りはあからさまに拒絶出来るが、葵相手に出来るわけがない。それに楽しそうな葵の表情を見るのは好きだ。だから都古は葵の話にジッと耳を傾け、時折頷いて先を促してやる。そうするとますます葵の表情が和らぐのだ。 食事を終えると次に葵は実際に彼らと過ごした時に手に入れた宝物も見せてくれる。聖と爽、二人とお揃いだというブレスレットを見た時はさすがに都古も嫉妬を隠しきれなかったけれど、葵が一緒に差し出したカタログのせいで怒るタイミングを失ってしまった。 「二人共かっこいいでしょ」 まるで自分のことのように得意げに葵は微笑んでくるが、澄ました顔で洒落た服を着て気取っていると妙なおかしさがある。普段の年相応な子供っぽさと小生意気さを知っているからだろう。 ブレスレットは大切に身につけるというが、葵は彼らが様々な衣装に身を包んだカタログを宝箱に仕舞うのだという。葵の大切な思い出ばかりを詰め込んだ箱は、宝箱とは名ばかりのシンプルなコルク製のボックスだ。 都古も何度かその中身を見せてもらったことがあるし、実際に都古との思い出の品も宝箱に仕舞われているのを知っている。 「そうだ、みゃーちゃんこれ見て」 葵がカタログの次に鞄から取り出したのは片手に収まるサイズの瓶。中には色とりどりの金平糖が詰まっている。 「元気が出るくすり。これは宝箱じゃなくて枕の下に置いておくんだ」 「……なんで枕?」 少し夢見がちな発言をする葵には慣れている。だから都古は金平糖を”くすり”と称したことよりも、その置き場の不自然さを尋ねてみた。すると言い出した葵のほうが不思議そうな顔をして都古を見つめ返してくる。 「なんでだろ?枕の下に隠さなきゃって思ったんだけど……なんでそう思ったのか分からないや」 自分の発言に困惑した様子の葵は、答えを探るように瓶を高く掲げ室内灯に当ててみる。カラフルな金平糖の粒はそれ自体が光り輝くものではないはずなのに、瓶が揺れる度にきらきらと発光しているかのように見える。 どこか不安定になった葵に体を寄り添わせれば、葵からもトンと軽く体重を掛けてきた。

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