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act.5三日月サプリ<165>

* * * * * * 目が覚めた時に感じたのはわずかな違和感だった。いつもの自分の部屋ではない。けれど全く知らない場所でもない。しばらくベッドで瞬きを繰り返した聖はようやくここが弟の部屋なのだと思い当たった。 「あぁ……あのまま寝ちゃったんだ」 爽の指摘通り、眠気に勝てなかったらしい。手元から滑り落ちかけていた携帯のディスプレイを覗けば、日付が変わったばかりの時刻が表示されていた。 次に聖が感じたのは空腹。いくら誕生日パーティで出されたケーキやお菓子をたっぷりと食べさせられたとはいえ、夕食を全く口にしていない状態ではお腹が空くのは当然だろう。このまま朝までもう一度眠りにつくことは出来るが、まだシャワーも浴びていない状態ではそれも気が進まない。 自分の部屋を覗くと、そこには自室を追い出された爽が当たり前のように居座っていた。彼はとっくに入浴も食事も済ませたらしい。しっかりと眠りに落ちている爽に自分を何故起こしてくれなかったのかと恨み言を言いたくもなるが、その権利はないだろう。 ひとまず我慢できないのは空腹のほうだ。運悪く、部屋に買い置いていたインスタントはひとしきり食べ終えてしまって切らしている状態。食堂も購買もこの時間ではさすがに開いてはいない。 食材を手に入れる方法は二十四時間稼働している自販機ぐらいだが、置いてあるのはせいぜい菓子パンの類。腹を満たすにはどうしても心許ない。深夜の外出は寮の規則で一応は禁止されているが、こうなったらこっそりと外部のコンビニに向かう他手は無いだろう。 エントランス脇には寮監が待機する部屋があるが、実質居たところでほとんど機能していないことは知っていた。堂々と正面玄関を突っ切ってみても案の定灯りが点いているはずの寮監室からは誰も出てくる気配がない。 一番近くのコンビニは学園を出て駅の方角へと向かう途中の住宅街にぽつんと存在している。繁華街で営業するような店とは違い、この時間では店員の数も少なく、客足もまばらだ。だからそんな店内に知り合いが居ればすぐに気が付くことが出来る。 漫画雑誌を手に取り堂々と立ち読みしている長身の男は誕生日パーティに欠席をした幸樹だった。

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