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act.5三日月サプリ<170>

「……あれな、重度のショタコン。変態」 「しょ、ショタ……はい?なんて?」 思いがけない暴露に今度は聖が吃る番だ。何が悲しくてあの冴えない教師の性癖を聞かされなくてはならないのか。微塵も興味のない話題である。だが、幸樹は至って真面目に聖を見返してきた。 「あんなコミュ障な奴が普通教員なんてならんやろ。可愛い男の子がお好みらしいで」 「ものすごくどうでもいい情報なんですけど」 「そうか?藤沢ちゃんの追っかけやで、あれ。元々中等部の担当だったくせに、わざわざ藤沢ちゃんに合わせて高等部に移ってきたぐらい筋金入りの」 「……はい?」 大事なことを後回しに喋るのは辞めてほしい。葵があの教師の欲望の対象になっているのなら話は別だ。どうでもいいなんて呑気なことは言っていられない。 「もしかして、葵先輩の服脱がせた教師って一ノ瀬?」 「何、手出してたん?」 「葵先輩が前に”先生にボタン外された”って言ってたから。触られてはないみたいですけど」 葵は名前までは打ち明けてくれなかったが、幸樹の話を頼りに推測するならば犯人はまず彼で間違いなさそうだ。葵を怯えさせた人物だと分かれば、自分も何か一言言ってやりたかったと悔しい気持ちにさせられる。 「そろそろあいつも限界そうやな。レンズ越しじゃ収まらんよな、そりゃ」 「なんでクビにしないんですか?生徒会ならそのぐらいの権限……」 どこか危機感のない幸樹の口調につい責めるように口を出してしまう。生徒会役員に出来ないことなどない。それがこの学園の常識だと聞いていたのに、危険分子を排除しない彼等の気が知れない。 「全部失った人間ほど恐ろしいもんはないで、聖。どこかに逃げ道を作ってやらんと、ああいうタイプがぷっつんしたらどうなると思う?盗撮ぐらいかわええもんや。あとで全部取り上げたったらええだけやし」 「何か起こったらどうするんですか?葵先輩に何かあったら俺……」 最悪の事態が脳裏をよぎる。焦るなと言う方が無茶だ。だが幸樹は宥めるようにポンと聖の頭を叩くだけ。一向に聖を安心させるような言葉を紡いではくれない。 「……分かりました。俺が一日でも早く役員になって葵先輩守ります。先輩達に任せておけません」 「あらら、そっちに行くの君。面白いな」 まさか聖がそんな宣言をし始めるとは思わなかったらしい。幸樹は茶色い瞳を瞬かせ、そして穏やかな笑みで聖を見下ろしてきた。 「ほな、未来の役員さんに悪いことさせたらあかんな。真っ直ぐ部屋戻り。おやすみ」 幸樹は聖から半ば強引に買い物袋を奪うと、そう言い残して一足先に寮のエントランスへと向かってしまった。背の高い彼は当然のように歩幅も広い。あっという間に姿が視界の遠くに消えていく。

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