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act.6影踏スクランブル<1>

連休が明けてしばらくは学園全体が浮ついた雰囲気に包まれていたが三日も経てばそれも落ち着き始める。新学年になって初めての大規模な試験期間が近づいている、という事実も生徒達の気を引き締める要素になっているのかもしれない。 連休前と比べて変化したことといえば、放課後の生徒会室に新しい仲間が増えたこと。 「この間出掛けたばっかなのに。なんでまた泊りがけのイベントなんてあるんですか?」 「ハイキングとか討論会とか超だるいんすけど」 一年生のみが参加する二泊三日のイベント、オリエンテーションは月末に控えている。その準備のための資料をまとめる手を止めて愚痴を零すのは表情までそっくりの聖と爽だった。 彼等はそれぞれ”毎回は参加出来ないかもしれない”そう断った上でこうして生徒会の手伝いをしに来てくれるようになった。物分りがよく賢い双子は少しお喋りなのが難点ではあるが、戦力としては十分に生徒会を助けてくれている。 「楽しかったよ?普段お話しない子とも喋れたし」 葵はさっきまで行われていた会議の要点をノートにまとめる手を止め、去年の思い出を振り返った。だがオリエンテーションに全く気乗りしない二人を説得する葵を邪魔するのは、近くで寛いでいた先輩の存在だ。 「でも葵ちゃん、ハイキング中に貧血起こして西名にずっとおんぶされてたんでしょ?ホントに楽しかったの?」 「……どうして櫻先輩が知ってるんですか?」 学年の違う櫻に葵の失態がバレているわけがない。そう信じていたのに優雅に紅茶を嗜む櫻は不敵な笑みを葵に向けてくる。後輩の前ではしっかりした先輩の体を保ちたいのだが、いとも簡単に阻まれてしまう。 「ごめん、葵くん。僕が冬耶さんから聞いて……」 思わぬ所に犯人が居た。申し訳なさそうに奈央が謝罪をしてくるが、彼が面白半分で葵の失敗を話すような性格でないことはわかっている。その予想通り、奈央は更に言葉を続けた。 「葵くんみたいに途中で具合悪くなる子が今年も出ちゃうかもしれないから、救護も兼ねた休憩場所を途中で作ろうかって提案したんだ。ごめんね?」 そういうことなら納得できる。奈央は悪くない、そう伝えるために葵は小さく首を横に振って応えた。自分のようにダウンしてしまう生徒が出ないことが一番だ。

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