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act.6影踏スクランブル<4>

生徒会室のある棟自体の玄関の施錠をしっかり済ませ、夕焼け空の中寮への帰路を辿るのも葵にとっては学園生活の一部。こんな些細なことでも連休が終わったのだと遅ればせながら実感させられる。 けれど、寮のエントランスが見えてきた頃、学園風景にあってはならない存在を発見し、葵は思わず足を止めてしまった。それは隣に並ぶ忍も同様だったらしい。更には部活を終えて校舎やグラウンドから寮に帰ろうとしていた一般生徒達も皆一様に一点を見つめている。明らかに異様な事態。 全員の視線の先には、深い紺色のセーラー服を身に纏った少女が居たのだ。男子校に存在してはいけないもの。だが肝心の少女は、長い黒髪を風に揺らしながらキョロキョロと辺りを見渡してはいるものの、男子生徒からの視線など全く気にも留めていない様子。 「もしかして奈央さんのお客さんでしょうか?」 去り際の奈央の口ぶりでは来客は道に迷っているらしい。目の前の少女の様子と合致していた。奈央とまだ巡り会えていないのなら助けてあげたほうがいいだろう。そう思った葵が彼女に駆け寄ろうとするが、忍に肩を掴まれて制止された。 「お前はあれに関わるな。行くぞ」 忍はそう言って葵の手を握り今までの道を引き返そうとし始める。彼女との接触を止めるのはさておき、寮はもうすぐの距離だ。遠ざかる意味が分からない。だが、葵が身を翻した時にはもう遅かった。 「……北条さん?」 同じ年頃の少女にしては落ち着いた、けれどやはりこの場には不似合いな高い声が響く。どうやら忍も顔見知りの存在だったらしい。周囲の野次馬は彼女の目的が生徒会長だと受け取ったのか、蜘蛛の子を散らしたように一斉に立ち去り始めた。興味深そうな目を向ける者も中には居たが、好奇心に身を任せてこの場に留まってしまえば忍に叱られるとでも思ったのかもしれない。 「加南子さん、ここはあなたの来るような場所ではありませんよ」 名を呼ばれてしまえば無視するわけにもいかない。忍は観念したように彼女と向き合った。葵もそれに倣い軽く会釈だけしてみるが、加南子と呼ばれた少女は葵を一瞥さえしない。 「そうね、招かれざる客なのは実感しています。どなたも生徒会室の場所を教えて下さらないの。話し掛けても逃げてしまうのよ」 「それは失礼しました。うちの生徒は女性に免疫が無いんですよ」 学園内では絶対的な王者として君臨する彼も、彼女にはどこか敬意を払うような態度をみせている。葵にとってそれは新鮮だったけれど、柔らかな口調とは裏腹に忍の声音は冷たさを感じる。

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