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act.6影踏スクランブル<13>
喫茶店を出て学園までの歩道を歩きながら、奈央は加南子のこれからの動向に思いを巡らす。執着の強い加南子のことだ。きっと学園の情報を調べ、葵の名前を突き止めてしまうだろう。
そして葵本人に接触しようとしたら。葵を傷つけるような言葉をぶつけたら。有り得る未来に奈央は段々と焦りを感じ始めてきた。友人の忠告が蘇ってくる。
“もう少し上手く嘘を付けるようになったほうがいい。女のあしらい方もな”
年不相応な台詞だが、彼の言う通りだろう。明らかに奈央は加南子の対応を間違えてしまっている。自分一人が苦しむだけなら耐えればいい。だが、無関係の葵を巻き込みかねないとあれば奈央だけで抱え込んでいい問題ではなかった。
寮に戻った奈央が向かったのはアドバイスをくれた友人の部屋。数度ノックを繰り返すと、彼は私服に着替えすっかり寛いでいた様子で現れた。
「随分短いデートだったな」
「……デートじゃない」
忍は奈央が何をして過ごしていたのか、やはり見通していたようだ。部屋の中へと招いてはくれるが、チクリと意地悪を言う所は彼らしい。
忍の部屋の室内は質の良い家具で揃えられているが、過度な華美さはない。無駄なものを省いて機能性を重視した空間は彼の性格をよく表していた。肌触りの良い生地に覆われたソファセットに向かい合うように腰を下ろしたはいいが、奈央は果たして彼に何と持ちかけたら良いか今更ながら悩んでしまう。
加南子の家と北条家は当然のように面識があるものの、現時点ではまだ奈央との婚約自体は正式に発表されていない。自ら加南子を婚約者として打ち明けるのは避けたい。
「……葵の予想通り、だな」
押しかけた上に黙ったままの奈央を前にして、忍はしばらく猶予をくれたが不意に笑みを零してそんなことを言ってきた。
「葵くんの?どういうこと?」
まさか加南子が既に葵に対して何か言ったのだろうか。嫌な予感に青ざめかけるが、忍はいたって楽しそうに言葉を続けた。
「困ったことがあっても人に頼らないように見えているらしいぞ」
「葵くんがそんなこと言ってたの?」
「あぁ、苦い顔をして出て行くお前を心配していた」
葵に気遣わせてしまった。それは奈央にとって心苦しい事実だったが、同時にじわりと胸に温かいものが灯る。葵自身、時折何かに悩むような素振りを見せているというのに、そんな最中でも奈央を思いやってくれたのだと知れば嬉しいと感じるのは否めない。
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