700 / 1393

act.6影踏スクランブル<14>

「しかし貫井のお嬢様は随分と奈央にご執心だな。その気がないならきっぱり振ってやったらどうだ?」 「簡単に言うけど……」 「大丈夫だ。貫井の援助がなくなって高山家が傾いたら俺が代わりに金を出してやる」 友人は高校生のくせにとんでもないことを言い出す。だが忍は冗談で言ったわけではなく大真面目な顔をしていた。確かに次期当主として英才教育を受けている忍は既に北条家の顔として社交場に顔を出しているし、仕事にも手を出しているとは聞いている。実現できるだけの説得力はあった。 「そんなこと頼めないよ」 「そういう相談をしに来たんじゃないのか?」 子供同士で家と金の絡んだ話をするわけがないというのに、忍は奈央の反応に驚いてみせる。彼はいつも冷静で常識的ではあるけれど、こんな時にやはり自分とは異次元の育ちをしてきたのだと実感させられる。 「加南子とどんな会話をしたのか気になっただけ」 「あぁなんだ、そういうことか」 奈央が無難な理由を口にすれば忍はあからさまにつまらなそうな顔をした。だがすぐに答えをもたらしてくれる。 「特に会話という会話はしていない。奈央の元へ道案内をしてほしいと請われて断っただけだ」 「……葵くんとは何か話した?」 「葵には口をきかせてない。具合の悪い一般生徒を医務室に連れて行ってやる優しい生徒会長を演じさせてもらったからな」 忍の言葉だけではどうにもその光景が思い浮かべられないが、分かるのは奈央が余計な墓穴を掘ってしまった、ということ。 「役員だって言わなかったんだ」 「当たり前だ。お前に関連の深い生徒だと紹介したら面倒だろう。……まさか、それを台無しにしたんじゃないだろうな?」 「そのまさか、です」 友人の心遣いを無駄にした。それを打ち明ければ忍からは盛大な溜息が返された。 「まぁたかだが同じ役員同士。それだけであの女が葵に絡むとは思えないが」 確かに一般的に考えれば同じ生徒会に属している男子生徒同士。普通なら嫉妬など発生しようもない。だが、加南子の奈央に対する独占欲は日に日に増している。生徒会にかける時間があるなら自分と過ごしてほしい、そう願う彼女が役員に対してお門違いな八つ当たりをし始めるのも時間の問題だ。 それに、と奈央は忍に不安要素を白状した。

ともだちにシェアしよう!