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act.6影踏スクランブル<15>
「……写真?葵の?」
携帯に保存していた葵の写真を見られた。それが何の写真かまでは話さなかったが、ただ簡潔に事実だけを伝えると忍は一瞬の間を置いた後、声を上げて笑い始めた。忍がここまで思い切り笑うのは珍しい。
「まさか奈央が葵の写真を撮り溜めていたとはな」
「ち、違う、冬耶さんから送られてきた写真だってば」
まるで奈央が盗撮でもしていたかのような言い回しをされて必死に弁解を重ねるが、忍はちっとも信じていないようだ。
「お嬢様はさぞかしご立腹だろう」
「だから、どうしようかと思って」
葵に攻撃の矛先が向いたら困る。ようやく本筋の悩みを口に出来たものの、笑いを必死に噛み殺している今の忍がまともなアドバイスをくれるとは思えなかった。
「……奈央、あの女がどうしてお前にこだわるか考えたことは?」
忍は深く息をついて呼吸を整えるとようやく笑みを引っ込めて今までとは異なる趣旨の問いを投げかけてきた。
親同士の縁だから。奈央が振り向かなくて躍起になっているから。そんなことを理由として思い浮かべたのだが、忍はどれも違うと言いたげに首を振ってくる。
「あの女も必死なんだろう。奈央、自覚はないだろうがお前は縁談の相手としては相当”アタリ”の部類に入る」
「アタリ?」
「考えてみろ。金を持っているだけの人間ならいくらでもいるが、容姿、気立てともに揃っている奴がどれだけいる?他にアタリを持っていかれるぐらいなら早い段階で捕まえておいたほうがいいに決まっている」
そういえば加南子もそんなことを言っていた。奈央のような人が相手だと皆に羨ましがられる、と。とはいえ、物のような言い回しをされるのはいささか気分が悪い。
「まだあれは十六にもなっていない。結婚にそれなりに夢を見る年齢だろう。お前を逃したくない気持ちは分かる」
忍の言うように自由に振る舞っているように見える彼女も抑圧された人生を送っているのは確かだ。彼女の婚約者候補が一体どんな人物達なのか奈央は知らなかったが、もしかしたら彼女は奈央が良いというより他の候補者を拒みたいのかもしれない。
「そうだ、お前の代わりの良い男を紹介してやろうか。臣はどうだ?」
「え、臣くん?なんで?」
さも良いことを思いついたとばかりに忍が口にしたのは、彼の弟、臣(おみ)の名だった。
「……いや、臣くんは、ダメでしょ」
年齢は確か加南子と同じではあるが、いくら加南子相手でも紹介するのは可哀想だと思ってしまうほどの人物。目元は忍と似ているが、派手な髪色もやんちゃな振る舞いも彼とは正反対だ。
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