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act.6影踏スクランブル<16>

「人の弟に対して失礼だな。あれは基本的になんでもイケる。俺と違って女も抱けるから大丈夫だ」 「そういうことを聞きたいんじゃなくて」 的外れな反論に、奈央はなんだかこめかみが痛くなってきた気がする。北条家が揃う場でも彼が現れることは滅多にないため、奈央が実際に臣と顔を合わせた時間はごくわずかだが、それでもインパクトはとてつもなく強い。 「必要があればいつでも派遣してやる。あれは俺の言うことは何でも聞くから」 臣が忍のことを、”シノちゃん”なんて愛称で慕っていたことも覚えている。実際同じ場にいた櫻や奈央を口説こうとした時も、忍に叱られるとすぐに大人しく身を引いていた。 「顔も良いし、家柄も良い。年齢も同じだ。これ以上ない条件なのに何が不満なんだ」 「臣くんの気持ちを無視して安易なこと言っちゃダメだよ」 自分の弟を躊躇いもなく差し出そうとするのは友情なのか、何なのか。だが自分の意思に反した縁談を進めて奈央と同じ思いをさせるわけにはいかない。提案を無下にされたと言わんばかりにむくれる忍に奈央が慌てて正論を返せば、彼はまたしばらく黙った後笑い出す。 「冗談だ。貫井如きに弟をくれてやるわけがないだろう。お前はその騙されやすさをどうにかしろ」 傲慢に思える彼だが友人思い。そんな評価をしかけた矢先にこうして笑われると本当に自分が情けなくなってくる。 「……まぁ、それがお前の良いところでもあるから」 「それ、フォローしてるつもり?」 やる気のない励ましに彼を睨みつければ、また彼は笑みを零す。一体ここに何をしに来たのかも忘れてしまった。けれど、楽しげに笑う友人を見ているとそれすらどうでも良くなってくる。 ただ、忍の部屋を去る間際に改めて忍は奈央に助言を与えて来る。からかうだけで終わらない所はやはり彼の良いところだ。 「今の奈央に選択肢は二つ。あの女を伴侶とするか、そうでないか。もう答えは決まっているはずだ。何を迷う必要がある」 奈央の選択により生まれた不都合はその時になって初めて向き合えば良い。忍は尚もそう続けた。いつも計算高くリスクを嫌う忍には不似合いな発言だが、それは"他人事"だかららしい。 「もう少し考えてみる。ありがとう」 「あぁ、だが悠長にはしていられないからな。もしあの女が葵に何かしたなら、貫井の家ごと徹底的に潰す。覚えておけ」 ニコリと笑う笑顔は相変わらず色気の滲むものだが、吐き出す台詞は何とも恐ろしい。自分がもたもたしていると家同士の戦争が勃発しかねないようだ。 余計に火種を増やしただけかもしれない。自室に戻った奈央は更に痛みの増したこめかみを押さえ、破れたステッカーの貼られた携帯を見下ろしたのだった。

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