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act.6影踏スクランブル<17>
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夕食を終えて帰るのは当たり前のように葵の部屋。もはや都古も自分も自室など要らないのではないか。京介はここに来る度にそんなことを考えていた。けれど、連休が明けてすぐに冬耶からもたらされた提案は京介の心を大きく揺さぶった。
"あーちゃん、そろそろ役員のフロアに移れそうだな"
連休中に葵が現役員との仲を深めたのを見て冬耶はそう確信したようだ。
元々役員である葵が一般生徒と同じフロアで生活をしていること自体が間違っている。今の状態は寮生活に慣れきっていなかった葵のための特別措置だ。
中等部の途中から京介と共に寮に入り、葵が生徒会に入ってからは形式上一人部屋にさせている。そうして少しずつ葵を慣らしてきた。現役員にもしっかりと心を開き始めた今、葵をもう一段階自立させるタイミングだと冬耶は主張してきたのだ。
“自立なんてしなくていい”
冬耶からの提案に対し、京介はそんな本音を思わず零してしまいそうになった。いつまでも自分が居ないとダメな葵のままで構わない。はっきり主張出来たならどんなに楽だろう。
「葵、兄貴から」
都古に膝を貸しながら勉強を続ける葵に、京介は携帯を差し出した。画面には冬耶からのメールを表示させてある。でもその内容はフロアの移動に関するものではない。冬耶が今日送ってきた他愛のない話題。
「この車、お兄ちゃんが買ったの?」
「さぁよく分かんねぇ。まぁそんな金があるって言われても驚かねぇけど」
メールに添えられた写真には、真っ赤なスポーツカーを前にポーズを決めている兄の姿が映っている。”今度ドライブデートしよう”、たったそれだけの文面からは冬耶がこの車の持ち主になったのかどうかも読み取れない。
「ドライブデートってどんなことするの?」
「俺に聞くなよ」
葵は具体的なイメージが湧かないようだったが、冬耶の誘いには前向きに乗るつもりらしい。車自体が苦手な葵にしたら随分な成長だ。冬耶と過ごす時間が作れるなら、そんな思いもあるのかもしれない。
少しずつ葵の苦手なものを克服させようとする彼のことだから、きっとこの誘いもその一環なのだろう。葵を独り占めしたくて成長を妨げようとする自分の器の小ささに嫌気がさしていく。
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