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act.6影踏スクランブル<19>
「今日奈央さんにお客さんが来たんだ。でも多分その人と仲良くないみたいで、元気なくなっちゃって……。前も奈央さん、辛そうにしてたことあったから心配なんだ」
葵はきつく巻き付いてくる都古を腕を引き離そうとは決してしない。けれど、葵なりの言葉で奈央への気持ちを打ち明けていけば、自然の都古の腕の力が弱まっていったようだ。
幼い頃は何か主張したいことがあってもただ泣いて縋ることしかしなかった葵が、こんな風に言葉で相手を説得出来るようになった。これも成長の証だと傍で見守る京介は思わされる。
「みゃーちゃんも一緒に奈央さんのところ行く?」
おまけにこうして都古に救いの選択肢を与えるのだ。都古が意固地になって葵を捕まえておく理由が無くなっていく。
「……待ってる」
基本的に一般生徒は役員の専用フロアには立ち入ることが出来ないルールだ。けれど、都古が今身を引いたのはそんなルールを守ろうとしたわけではない。きっといくら相手が奈央とはいえ、目の前で葵と親しげにする先輩には牙を剥きかねない。だから自制したのだろう。もしかしたら都古もまた僅かながら大人になってくれたのかもしれない。
葵は一人で平気だと言い張ったが、生徒会のフロアに繋がるエレベーターに乗り込むところまで京介は都古と共に見送ってやった。閉まりかけの扉の奥で手を振る葵を見ながら、いつかこうして放課後葵と別れる生活がやってくるのだと思うと耐えられないと改めて痛感させられる。
「……なぁ都古」
エレベーター前のソファに腰を下ろし葵を待つ姿勢を見せた都古に呼びかけるが、視線は京介へは向かない。葵の前では棘のある態度は極力見せないものの、こうして二人きりになると都古は京介に随分と素っ気なくなる。
「さっきの話、兄貴は本気っぽい。葵をあっちに引っ越しさせようってさ」
都古の視線に入るように指先で専用エレベーターを示せば、ようやく彼はピクリと肩を揺らした。だが青白い肌に映える朱色の唇は動きを見せない。
「お前はどう思う?」
葵抜きで都古のテリトリーに入ると怒られる。だから京介は二人分離れた場所に腰を下ろした上で改めて問いかけた。
先程と同様に都古は断固として拒否するに違いない。都古からも否定を貰えれば、自分だけが意固地になって葵を捕まえておきたいわけではないと安堵出来る。そんなずるい期待を込めていたのだが、都古は悩むように眉をひそめた後、予想外の言葉を口にしてきた。
「アオが、望むなら」
あくまで葵の意思に沿うと告げる都古は相変わらず京介のほうを見ない。けれどその言葉に嘘はないように思えた。京介だって葵がそれを望むなら引き止めるような無様な真似をするつもりはない。そうではなく、葵を困惑させる提案だと共感してほしかったのだ。
「アオが危ないより、マシ」
「危ないって?あぁ……こないだ言ってたやつ?」
葵が一人でふらついていた際に同級生から絡まれた話は聞いていた。セキュリティを考えれば都古の言うように、役員専用のフロアに居たほうが安心だ。それに一般フロアで生活していることで役員の中では葵がどこか緩い存在に見られがちなところも改善出来るだろう。
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