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act.6影踏スクランブル<20>

「都古は?平気か?」 また彼の地雷を踏みかねない。それは分かっていたが、都古がこうもあっさりと身を引く発言をするのは納得がいかない。京介が今度は彼自身の気持ちを問い掛ける。 「……登れるし」 質問に対しての回答としては不適切だ。だが京介だって伊達に都古と共に過ごしてきたわけじゃない。もし葵が役員フロアで寝泊まりを始めたら、窓を伝って会いにいくつもりなのだろう。 「お前さ、歓迎会でもそれやっただろ。なんでか知らねぇけど俺が会長から説教食らったんだからな。また警報鳴るぞ」 葵が湖に飛び込んだせいで有耶無耶になっていたが、京介は都古がこっそり葵の元に忍び込もうとした被害を被っていた。凝りもせずまた同じことをしでかそうとする猫にはほとほと呆れる。だから都古は慌てていないのだろうが、見過ごすわけにはいかなかった。とはいえ、京介が何を言っても聞かないのは分かっている。 「つーか、別にあっちも安全じゃないよな。会長たちいるわけだし」 京介は誰に言うでもなく、ふと思いついたことをぼやく。葵を傷つけることはないだろうが、葵が自衛できない限り間違いなく手は出されるだろう。分かっていて葵を差し出すような真似はしたくない。 「……京介も、危ない」 「は?俺が?」 望まない時に返事をしてくるのは気まぐれな都古らしい。けれど切れ長の目で睨みつけられる謂れはない。 「アオに、触ってる」 手を繋いだり抱き上げたりキスしたり。葵相手のそんなスキンシップは日常茶飯事だが今都古が問題視しているのはそれ以上のことなのは明らかだった。 「お前も触ってんだろ」 「俺は、消毒」 都古に言われる筋合いはないはずなのだが、彼は自身の行動を正当化しようとする。都古からしたら神聖な葵に触れるもの皆穢れているように見えるのだろうが、それは京介も同じだ。 自分しか知らないはずだった葵の表情も身体も、忍や櫻、双子、そして幸樹まで暴き出した。初心なくせに与える快感を健気に受け止める姿を他も知っている。それだけで胸が嫉妬で満たされていく。 「そもそも葵がぼやっとしすぎなんだよ」 京介以外にも触れ合いを許す葵への八つ当たりを口にすると、都古がまたあの冷たい目を向けてきた。 「京介のせい」 「……うるせぇな」 都古の指摘通り元凶は京介にある気がしないでもない。こんなことになると分かっていたら、ロクな知識を与えぬまま体に触れることもしなかった。早い段階で自分だけの物にもしていたかった。後悔しても遅いが、最近悔しさが堪え切れなくなってきた。 いい加減京介の相手をするのに飽きた都古はまたエレベーターの扉だけに向き直りこちらを見ようともしない。その横顔を見ながら京介は苦しさを紛らわすようにきつく拳を握った。

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