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act.6影踏スクランブル<28>

* * * * * * 「烏山先輩、いつにも増して眠そうですね」 食堂で一番陽当りの良いテーブルは確かに眠気を誘う。けれどせっかく用意した食事をそっちのけで突っ伏している都古を見て、聖は呆れたように声を掛けた。正確には眠そう、というより完全に眠りに落ちかけている。一つに結んだ長い髪も、都古の眠さを体現するようにくたりと垂れていた。 いつも無口で無愛想な彼がウトウトと緩い瞬きを繰り返す様は、日向ぼっこをしている猫そのもの。普段は葵が都古を可愛いと表現する感覚に理解を示せなかったが、今の姿ならその気持ちは多少共感してやれる。 「多分、昨日眠れてないんだと思う」 「「なんで?」」 聖と爽、二人からの問いかけに対して葵は気まずそうな顔でパスタをフォークに巻きつける手を止めた。 「僕が奈央さんの部屋で寝ちゃったから」 「「なんで!?」」 今度の声は先程よりも大きく響く。だが完全にノーマークだった先輩が葵と夜を過ごしたとあれば静かに問いただすことなど出来なかった。聖が弟を見やれば、彼もまた奈央に裏切られたとばかりに愕然とした表情を浮かべている。 「もしかして西名先輩が今日居ないのもそのせいですか?」 「……かな?分かんない。京ちゃん、朝から機嫌悪いの」 京介の短気には慣れているのか、葵はどこか呑気に見える。ランチの時間に京介が来ないこと自体珍しいことではないけれど、せっかく連休最後の日に勃発しかけた京介と都古の諍いが落ち着いたかと思えば、また不穏な波風が立っているようだ。 「本当は奈央さんが寝たら帰るつもりだったのに、トントンしてるうちに眠くなっちゃったんだよね」 葵が溜息混じりに零したのは聖の想像する夜の光景とは大分違うものだった。一体どうしてそんなシチュエーションになるのか理解に苦しむが、色っぽい事は起きていなそうである。葵らしいと言えばらしい。 「そうだ、今日先生から言われた?オリエンのグループ決めの話」 葵がこの場の空気を変えるように新しい話題を出してきたが、生憎聖と爽にとっては憂鬱な気分を蘇らせる種にしかならない。 今日の朝礼で担任からは間近に控えた一年生のみのイベントに向けて、クラス内でグループ分けをするように指示が出された。期限は明日の放課後。生徒会の手伝いをしていたおかげで、一般生徒よりも早くそうした指示があることは知っていたが、だからといって事前に備えられるわけもない。

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