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act.6影踏スクランブル<29>
「俺たちだけ二人のグループってダメですか?」
「皆と仲良くなるチャンスだよ?」
「……仲良くなりたいなんて思わないんですけど」
葵に宥められてもつい、聖は強がりで返してしまう。
中学まで通っていた公立校の生徒達よりも、幼少期から全寮制の規律の中で過ごすこの学園の生徒達のほうがよっぽど大人だろう。入学する前の聖はそう思っていたが、もしかしたら今聖を取り巻く環境のほうが厄介かもしれない。
閉ざされた空間の中で同性である役員に憧れるのはまだいい。確かに崇められるだけの要素を彼等は持ち合わせている。けれど、そんな彼等を遠巻きに眺めて満足する心理が聖には理解できない。聖や爽が葵にアプローチしたように、好きなら好きと言えばいいだけの話だ。それが出来ないくせに一方的に恨まれる筋合いはない。
今も”憧れの先輩”である葵と食事する聖や爽へと遠巻きながら敵意のこもった視線を投げかけてくる同級生にはいい加減辟易していた。
「そうだ、一緒に探そうか?」
「「何をですか?」」
「二人と同じグループになってくれる子」
葵はさも良いことを思い付いたとばかりに目を輝かせてくれるが、葵に介入されると余計面倒なことになりかねない気がした。葵との親しさが原因で疎まれているというのに、葵に手助けをされては更に嫉妬を煽るのは間違いない。それにそこまで面倒を見てもらうのは、後輩としてではなく一人の男としての恥ずかしさもあった。
だが最後の一口を食べ終えた葵はすっかりその気になって、都古を起こしにかかっている。
「いないですよ、そんなの」
「俺らまともにクラスの奴らと口利いたことないんすよ?」
「大丈夫。きっと聖くん爽くんと仲良くなりたいって思ってる子がいるよ」
幼くて頼りない、そんな印象が強い葵だが、時々こうして先輩らしい一面を見せてくる。言い返したいのに、甘い蜂蜜色の瞳に見つめられると頑なな心が溶けていく感覚に襲われる。
「僕がそう思ったみたいに。ね?」
葵があくまで何でも無いことのように言ってのけるが、その言葉がどれだけ聖達を喜ばせるか分かっていないのだろう。
強引に迫ったことが心のどこかでずっと気掛かりだった聖にとって、葵からも二人に意思を持って近付いていた事実はそんな不安を解きほぐしてくれる。それは爽も同じらしく、葵からの提案をそれ以上拒む言葉は結局どちらからも出ずに終わった。
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