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act.6影踏スクランブル<31>

明るい小太郎は、今の物理的な立ち位置同様、クラスの中心人物だ。とびきり整った容姿をしているわけではないが、茶色い毛並みも、大きく口を開ける笑顔も、どこか柴犬を彷彿とさせて愛嬌がある。そんな彼が友人達を差し置いて、聖や爽と組むことを選ぶとはどうしても思えない。 それにここまで注目を浴びた中でストレートに双子と組んで欲しいなんて頼まれるのは恥ずかし過ぎる。 「葵先輩、やっぱりいいです」 「そろそろチャイム鳴るし」 今まさに口を開きかけた葵を両脇から挟んで気を逸らそうとするが、葵は小太郎をジッと見据えたまま動こうとしない。 「小太郎くんはオリエンのグループってもう決めちゃった?」 「いや、まだっすけど……」 律儀に葵に返事をしながらも、小太郎は双子が止めたがっていることに気付いたのか気遣わし気な視線を投げてくる。 聖や爽の陰口を叩くクラスメイトの中に彼は居ただろうか。小太郎の全く棘のない態度を見た聖は、ふとそんなことを思った。だが教室での思い出を振り返ろうとする聖の思考を葵が邪魔をした。 「じゃあオススメの二人がいるんだけど、どう?」 聖と爽の腕それぞれに自身の腕を絡めた葵は小太郎に差し出すような姿勢と発言をし始める。さすがにここまで直球な売り込み方をされるとは思いもしなかった。 「絹川聖くんと爽くん。すごく優しくていい子だからオススメだよ」 「ちょ、葵先輩マジで恥ずかしいからやめて」 「ホント、勘弁してください」 葵の気持ちはありがたい。けれど、聖や爽に対して良い感情を抱いていない生徒達の集まる教室でこれは拷問に近い。小太郎が、そしてその周りがどんな顔をして双子を見てくるのかが恐ろしくて、聖は思わず葵の肩口に縋るように顔を伏せた。 訪れた沈黙の間、聖はこれから加えられるだろう悪口をつい想像してしまう。 “学校行事のグループ分けまで面倒を見させるなんてみっともない” これに関しては事実な上に、聖も同感だ。だからこそ指摘されるのが居た堪れない。既に遠くでうっすらと似たような声が漏れ出ていることにも敏感になる。 だが、沈黙を破った小太郎は聖の予想に反し、いつも友人達に見せる笑顔を浮かべてきた。 「なんだ、もっと凄いこと頼まれるかと思いました。全然いいっすよ」 生徒会直々の依頼とあって身構えていたらしい小太郎は、どこか安堵すら感じさせる表情をしている。だが、周りは小太郎よりも冷静だった。あっさりと葵の頼みを引き受けた小太郎に対し、皆なにか言いたげにしている。葵の手前好き勝手言えないのだろうが、”やめておけ”と顔に書いてある。 「ありがとう。じゃあよろしくね」 ちょうど昼休みの終わりを予告するチャイムが鳴ったおかげで、葵は満足げに自分の教室へと帰ってしまう。確かに三人以上のグループを作れという担任の指示には応えられる状況を整えてくれたが、今双子を置いていくなんて、初めて葵を恨みたくなってしまう。 相棒をちらりと盗み見れば、彼は聖以上に赤い顔をして困ったように眉をひそめていた。

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