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act.6影踏スクランブル<32>

「おい、いいのかよ竹内」 「絶対面倒なことになるからやめとけって」 「お前までこいつらの巻き添え食らったらどうすんだよ」 小太郎はやはり周囲から愛されているらしい。葵の姿が見えなくなった途端、彼等は口々に安易に葵の頼みを引き受けた小太郎を心配する声を発し始めた。妬みの対象として嫌われている双子に関わることで小太郎まで嫌な思いをすることを危惧しているらしい。 「何が?俺ら半端な人数だったしちょうどいいじゃん」 小太郎も葵の前だからと大人しくしていた可能性を捨てきれずにいたが、彼は全く変わらぬ態度で朗らかに友人達に笑顔を返した。そして少しはにかみながら、行き場をなくして立ち尽くす聖と爽の正面に立ってくる。 「えーっと、なんか成り行きっぽいけどとりあえずこれからよろしくな。竹内でも小太郎でも、気軽に呼んで」 すんなりと双子を受け入れる真意は何だろうか。もしかしたら双子を通じて生徒会に近付くつもりなのか。聖はまるで邪気のないように見える小太郎を心から信じ切れずにいた。 今まで自分達に親しげな顔で近付いてきた者は皆、下心を持っていた。目的は同年代よりも多く所持しているお金や、二人に群がる女性、仕事上出会うことのある有名人との縁など様々。だから小太郎もきっとそうに違いない。 でも葵が選んだ相手だということが、なぜか聖に期待も持たせてくる。信じてみたい気持ちがないわけではないのだ。友達の作り方がわからないだけ。 「多分こいつらとも喋ったことないよな?すぐ覚えられないかもしんないから忘れたらまた聞いて」 戸惑う二人の様子に構わず、小太郎は周りの友人まで一人一人名前と部活を教えてくれ始めた。悪態をついていたはずの彼等も小太郎に名を告げられると大人しく双子に向かって頭を下げたり、手を挙げたりと簡単な挨拶をしてくれる。小太郎が言うなら、そんな人望が垣間見えた。 「たまには食堂じゃなくて教室でも昼飯食いなよ。俺ら大体居るから」 五限目の授業を受け持つ教師がやって来たのを見て小太郎は最後にそう告げてきた。これは一緒に食べようという誘いとして受け止めていいものなのだろうか。答えられなかった聖が爽に視線を投げれば、彼もまた助けを求めるようにこちらを見ていた。 葵の周りを囲む先輩達になら鬱陶しがられるくらい歩み寄ることが出来る。彼等が二人を”葵の親しい相手”として決定的には拒絶せずに受け入れてくれるという安心感があるからだ。だが反対に押される経験が無くて対処方法が分からない。 ────葵先輩、なんで竹内にしたんだろ。 滞りなく始まった授業に耳を傾けながらも聖はそんな疑問を胸に芽生えさせた。 昼休みが終わりかけの教室にはほとんどのクラスメイトが揃っていた。その大半はあからさまに双子に敵意を向ける者と完全に無関心な者。葵があっさりと、双子に親しみを込めた言葉をかけてくる人物を探し当てたことが不思議でならない。 放課後生徒会で葵と再会したら聞いてみよう。聖はまだムズムズする心を落ち着かせながら、そう心に決めた。

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