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act.6影踏スクランブル<34>

「すぐ開けるようにって、遥さんからもらったお土産のカード、目印に挟んでたの。それもなくなっちゃった」 「……あぁ」 それなら納得だ。遥から届いた大切な贈り物。それを紛失したとあれば、ノートをなくしたことと比較にならないほどショックだろう。 進級する際、クラスが別になってしまった京介からいくつか注意を受けていた。その内の一つが葵のなくし物の多さだ。間違いなく誰かが故意に盗んでいる。京介はそう確信しているようだったが、犯人は特定出来ていないらしい。 進級してからそうした事態は都古の知る限り起こっていないし、そもそも今まで盗まれてきたのは葵が直接身につけるものばかりだった。だから学習道具に関しては都古の警戒の範囲外だったのだ。 「絶対、見つけるから」 「見つけるってどうやって?今まで見つかったことないよ」 都古の誓いに葵は安堵するどころか不安そうな目を向けてきた。都古も正直良い方法を思いついたわけではない。 「生徒会、行ってて。探しておく」 「……でも、もういいよ。きっと見つからないから」 一年の双子が葵を迎えに来た姿が見えて、都古はここで葵と別れることに決めた。けれど葵は諦めた顔をして都古を制止してくる。今まで見つかった試しがないことが葵を絶望させているようだ。 「大丈夫、猫、だから」 「猫って探しものが得意なの?」 「うん」 根拠のない話だけれど、都古が自信たっぷりに頷くと葵はようやく表情を和らげてくれた。一度言い出したら聞かない都古の性格も理解している飼い主は、”無理はしないで”と言い残して教室を後にした。その背中はやはりしょんぼりと落ち込んでいるように見える。 「七も手伝うよ。どこから探す?」 いつもは放課後一目散に恋人の元へ向かう七瀬も友人のためなら一肌脱ぐつもりらしい。うるさい彼を連れ回るのは気が引けるが、広い校内を一人きりで動くよりは効率的だろう。 「葵ちゃんの私物欲しがる人っていったらやっぱ一ノ瀬かな?」 七瀬はアテもなく探す気はないらしい。京介も盗難の犯人として目星を付けていたのが教師である一ノ瀬だ。決定的な証拠が見つからず追及出来ないままだが、十分怪しい存在。 そうと決まれば猪突猛進型なところは都古も七瀬も同じ。彼が居城としている生物室の隣、準備室まで向かったのだが、どうやら不在らしい。 「……都古くん、一ノ瀬じゃないかも。さっき一ノ瀬も授業中だ」 生物室の扉に貼ってある使用予定の書かれた時間割に目を通した七瀬から落胆したような声が上がった。さすがに授業を行なっている教師側が抜け出して、距離の離れた葵の教室に忍び込むことなど非現実的だ。 「葵ちゃんのファンが英語のノートなんて欲しがると思えないしなぁ」 有力候補が消えてしまい、七瀬は悩むように自身の巻き毛をくるくると指で弄び始める。葵に粘着質な視線を送る生徒には心当たりがあったものの、彼らがただ英文とその対訳が書かれただけのノートに価値を見出すとは考えにくい。どうせ盗むならもっと別の物を選ぶだろう。

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