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act.6影踏スクランブル<35>
「単純に葵ちゃんへの嫌がらせ?葵ちゃんのこと嫌いな人かぁ……」
「居ない」
「いや、葵ちゃんが悪いわけじゃなくてさ。嫉妬とか逆恨みとか、あるじゃん?」
無愛想な自分ならまだしも、清純な主人が人から悪意を向けられる対象となるなんて都古には納得がいかなかった。でも七瀬は都古の主張に苦笑いを返してくる。
「こないだ中庭に居た高山さんのファンも葵ちゃんのこといつも睨んでるもん」
「……名前は?」
補習中、確かに七瀬からそんな忠告を受けた覚えがある。比較的小柄な生徒だったことは思い出せるが、あまり興味がなかったから顔も朧気だ。
「三年の福田未里。一応アリバイ確認しておく?」
探偵や刑事にでもなったつもりなのか、七瀬はどこかこの状況を楽しんでいるように見えた。
都古が頷くと七瀬が先陣を切って三年の教室に向かい出すが、すでに放課後の時間に突入してしばらく経過している。目的の人物はおろか教室内には片手で数えきれる程の生徒しか残っていなかった。
「さっきの時間、このクラスは選択授業だったみたいだね。それぞれ何の授業とってるか調べないと分かんないや」
七瀬はここでも躊躇いなく教室の前面に貼り出された時間割を見に行ってきた。でも収穫はなく、つまらなそうな顔をしている。
「都古くん、犯人探すより盗んだらどうするかを考えてみる?」
「……どういうこと?」
「だから、ただの嫌がらせだったらノート盗んでから何をすると思う?七なら捨てちゃうけど」
勉強は出来ないけれど七瀬は物事を客観的に見ることも、思考を論理的に組み立てることも案外得意だ。普段は秀才の綾瀬と双子だということが信じられないが、こうして冷静な一面を見せられると似たものを感じざるを得ない。
七瀬の言う通り、葵をただ困らせたいという目的なら学習道具を盗むのは効果的だし、その後不要になった物を所持しておくよりはすぐに捨ててしまったほうが安全だろう。都古が七瀬の提案を受け入れるように頷けば、次の目的地は学園中の廃棄物が集まるゴミ捨て場に決まった。
都古が中学まで通っていた学校では毎日生徒が当番制で掃除を行いゴミを捨てに行くルールだったが、ここではその役目を全て清掃員が担っている。だから校舎から少し離れた場所にある集積場には基本的に教員すら近寄ることはない。そのため学園生活に馴染めない生徒たちの吹き溜まりにもなっていた。
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