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act.6影踏スクランブル<36>

七瀬と連れ立ってそこへ訪れると、やはり晴れ空とは対照的にどこか薄暗い雰囲気の漂う集積場の前には身なりの悪い生徒たちが堂々と煙草を咥えてお喋りに興じていた。その中には見覚えのあるピアスの生徒もいる。 都古に絡むだけでは飽き足らず、都古が補習を受けている間彼等は葵にまで接触しようとしたらしい。幸い双子が通りかかったおかげで未遂で終わったとは聞いているものの、見過ごせるような問題ではない。次に出会った時には必ずその報復をしてやろうと考えていたが、クラスも名前も記憶にない、そもそも授業にまともに出席していない相手を探すのは難しく未だ成し得ていなかった。 「もしかして補習中喧嘩したのってあいつらなの?」 ようやく巡ってきたチャンスに都古が拳へと力を込めると、それに気付いた七瀬が小さく尋ねてくる。 「都古くんが勝ったんじゃないの?まだやる気?」 「……アオ、泣かせた分、やる」 血気盛んだと呆れた顔をされるが、都古だって暴力が好きなわけではない。そもそも他人と肌が触れるような行為は極力避けたいと思っている。けれど、葵を傷つけた相手なら話は別だ。 「都古くん、葵ちゃんがそれ喜ぶと思う?」 葵よりも更に小さな七瀬がジッと都古を見上げて問い掛けてくる。 「今やることは何?」 「……アオの、ノート」 「そう、それ探すんだから喧嘩は後回し。早く探して葵ちゃんに教えてあげようよ」 主人と認める葵以外に諭されて言うことを聞くのは癪だ。それも普段いがみ合うことの多い七瀬が相手なら尚更。 都古は七瀬に言われたからという前置きなしに、復讐を果たすことと探しものに専念することのどちらが葵を笑顔に出来るか、頭の中で天秤に掛ける。答えは明らかだった。 「なんだ、ちゃんと我慢できるじゃん都古くん」 握りしめた拳をゆっくりと解き、彼等の元ではなく集積場の方向へと向かえば七瀬が満足げに笑顔を向けてきた。 都古が七瀬と連れ立って目の前を通り過ぎても、彼等、特に口元にピアスを付けた生徒はニヤリと嫌な笑みを浮かべるだけでこちらに絡んでは来ない。負けたばかりの相手に挑むほど馬鹿ではないのか。少しだけ拍子抜けするが、七瀬はそれを都古が我慢したお陰、といって褒めてくる。 「じゃあ七はあっちから見てくね。都古くん、サボんないでよ」 「お前こそ」 薄暗い集積場の扉を開ければ、途端に鼻先を嫌な匂いがかすめる。七瀬と悪態を吐き合いながら二手に別れてそれらしきものを探すことにしたはいいが、全寮制の学園から出るゴミの量は凄まじい。一応は集められた場所とゴミの種別によって仕分けられているようだったが、そこからたった一冊のノート、そして更に小さく薄いフォトカードを探すことは無謀だろう。 だが諦めるという選択肢は都古に無かった。ブレザーの袖を捲り、一つ一つのゴミの山を漁りだす。ここに葵の宝物が埋まっている可能性が少しでもあるのなら、汚れることなど厭わない。

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