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act.6影踏スクランブル<38>
「七?ここ?」
「そうそう、早く開けて」
都古がぼんやりとした意識の中で自己嫌悪を募らせているうちに、七瀬が呼んだ助けが到着したようだ。扉越しに聞こえた恋人の声で、七瀬が嬉しそうに飛び上がる。都古とは正反対と言えるぐらい喜怒哀楽の激しい彼が、たまに羨ましくなることがある。
「こんなところで何してたんだ?烏山まで一緒に」
「葵ちゃんのノート捜索隊。隊長が七で、都古くんが副隊長」
「……あとで詳しく聞かせて」
ゴミ集積場で二人揃って薄汚れた上に閉じ込められたとあれば、綾瀬が怪訝な顔をするのも無理はない。七瀬がそんな空気を察しもせずにふざけてみせるから、余計に綾瀬の眉間の皺が深くなった。
「で、これの心当たりは?」
綾瀬が見せてきたのは、この扉を外側から押さえつけていたらしき鎖だった。所々錆びた鎖が一体どこから運ばれたものなのかまでは分からないが、誰がやったかは検討がついている。
ぐるりと周囲を見渡せば、少し離れた所からこちらを見つめる奴らの姿があった。目が合えば、中心にいるピアスの彼がひらひらと手を振ってくる。
些細な悪戯だ。怪我もしていなければ、先日のように侮辱されたわけでもない。だがここで黙って引き下がれば付け上がらせることが目に見えていた。
「今度は、止めんな」
咄嗟に都古のブレザーを掴んできた七瀬に冷たく言い放てば、彼は少し戸惑った様子を見せたもののゆっくりと指を離してくる。それを合図に都古は思い切り駆け出した。
挑発に真正面から乗った都古に対して、彼等は最初から示し合わせていたようにバラバラに別れて逃げ始めるものの都古が狙いを定めているのはピアスの生徒ただ一人。
近付いた背中を遠慮なく蹴り倒し、派手に倒れ込んだ体に馬乗りになって押さえ付ける。
「ミヤコちゃん、分かってんの?今俺に手出したら不利なのはそっち」
都古にしっかりと腕を拘束されてぴくりとも動けないというのに、彼は慌てる様子も見せず煽り続けてくる。彼がしたことは集積場の扉に鎖を巻き付け、灯りを消した、ただそれだけ。それすらも彼がやったという証拠はない。ここで都古が手を上げれば、非があると見なされるのは間違い無く都古のほうだ。
「……だから?」
「謹慎食らったらそのあいだ俺が葵ちゃんと仲良くしてあげるね」
それで脅しているつもりなのだろうか。都古はただでさえ鋭い目を細めてジッと彼を見下ろした。二度と葵に触れるだなんて馬鹿なことを言えないよう、今ここで徹底的に潰しておけばいい。
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