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act.6影踏スクランブル<40>
* * * * * *
柔らかく微笑むいつもの姿も可愛いけれど、物憂げな表情も好きかもしれない。週明けに行われる全校集会での報告事項をまとめる葵を見つめながら、爽はそんなことを考えていた。
今日の会議は、どこかから電話を受けた忍が櫻を引き連れて出て行ってしまったせいで中止となっていた。いつも落ち着き払う忍が少し慌てた様子だった上に、彼が出ていく際に掛けた言葉が葵を不安にさせているのだと思う。
“後で呼ぶ”
簡単な一言だったが、忍が出て行った理由が葵にも関連することだということは明白だ。携帯を持たない葵のために奈央が連絡係として付き添っているから爽達が残る必要はないのだけれど、このまま帰る気にはなれなかった。
そもそも爽は生徒会が終わったら、昨日会話した通り櫻にレクチャーを受けるつもりでいたのだ。どちらにせよ、櫻の帰りも待たなくてはならない。
「そういえば、生徒会の年次の資料って図書館にしかないんすか?」
「……資料?一応ここにもあるけど、どうして?」
櫻から課題として与えられたことを思い出して、爽は正面に座る葵へと声を掛けた。
「月島先輩に勉強しろって言われたから見に行ったんすけど、昨年度の資料だけなくって」
葵は不思議そうにしながらもわざわざ席を立って戸棚に並んだファイルの中から該当のものを差し出してくれる。
ずっしりと重たいファイルの中には、会議の議事録や全校生徒に配布した生徒会からの案内資料が下書き段階のものまで収められていた。その多くが葵の筆跡。書紀として当然の仕事なのだろうが、葵がどれだけ真面目に生徒会の活動に取り組んでいたかを実感させられる。
「図書館には清書した状態のものだけまとめてあるからそっちのほうが見やすいと思うけど。生徒会の資料借りて読んでくれる人なんているんだね」
「いや、貸出中じゃなくて、なくなったかもって言ってましたよ」
「……なくなった?」
図書委員の言葉を伝えれば、葵の顔が瞬時に陰った。
「なくしたなんて報告上がってきてないけど、最近のことなのかな?」
「少なくても連休明けにはあったらしいんで、ここ数日の話なんじゃないですか?」
電卓を叩く手を止めて会話に入ってきた奈央からの問いには、爽の代わりに聖が答えた。すると、それを聞いて葵がますます俯いてしまう。
「「葵先輩?どうしました?」」
「……うん、あのね」
二人して問い掛けると葵が少し迷う様子を見せながら放課後の出来事を打ち明けてくれた。関係ないかもしれないと前置きをしながらも、ノートをなくした上に、自分と縁の深い資料までなくなったと聞けば気味悪く感じるのは無理もない。
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