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act.6影踏スクランブル<43>

* * * * * * 卒業生として学園に立ち入ることはあっても、まさかこんなにも早く保護者として呼ばれるとは思いもしなかった。指定された生徒指導室へ足を運べば、廊下で冬耶の到着を待つ二人の影が揃って立ち上がってきた。 「ごめんなさい、七が手を離しちゃったから都古くん……」 「よしよし、大丈夫だからお兄さんに任せておきなさい」 冬耶の姿を見るなり駆け寄ってきたのは葵よりも更に小柄な七瀬だった。くるくるの巻き毛を撫でてやっても七瀬が冬耶から離れる気配を見せない。余程責任を感じて不安だったのだろう。 「七瀬ちゃんは?怪我してない?」 「七は大丈夫。でも都古くんが……」 七瀬のカーディガンが血塗れなことを指摘すると元々垂れ気味な目が更にヘタってしまう。 都古が複数の生徒相手に喧嘩を吹っ掛けた、その場面に七瀬たちが立ち会っていたことは既に連絡を受けていた。諍いのきっかけを作ったのは都古ではなく相手方とも聞いている。にも関わらず未だに都古が生徒指導室に閉じ込められているのは、保護者を呼ぼうとした教師に対してまで手を上げてしまったからだ。 「もう、皆して電話してくるから何事かと思ったよ」 冬耶を呼び出したのは目の前の七瀬だけではない。都古の扱いに困った教師に引っ張り出された忍もお手上げとばかりに冬耶に助けを求めてきたし、そもそも都古のデータベースに記載している電話番号は冬耶の携帯番号。立て続けに三者から連絡が来てしまえば、新車を飛ばしてやってくる以外の選択肢はなかった。 七瀬と綾瀬をそのまま廊下に待機させ生徒指導室の扉をくぐると、想像以上に場の空気は悪かった。 部屋の隅に背を預けてしゃがみ込む都古はまるで手負いの野良猫。制服が乱れているのも気にせず警戒心をむき出しにしながら、ひたすら周囲に睨みをきかせている。そしてそんな都古と教師との盾になるように忍と櫻が少し疲れた顔で立っていた。 「西名、あれほど学内のデータをいじるなと言っただろう」 「はは、すみません。こんなこともあろうかと」 「笑い事じゃない。早くこいつの親の連絡先を寄越せ」 冬耶の顔を見るなり、頬に大きな痣とひっかき傷を付けた教師がこめかみに青筋を立てながら迫ってきた。都古にやられたのは彼なのだろう。 「彼の保護者は俺で構いません。今回負傷した相手の親御さんと話す必要があれば、俺が行きます。責任はきちんと取りますから」 「責任って簡単に言うけどな、未成年のお前に何が出来る」 「腹は括ってますよ」 保護者を名乗ることが容易いものではないことぐらい理解している。全てを飲み込む覚悟で都古のデータベースを書き換えてやったのだ。常に笑みを浮かべている表情を改め真顔で教師を見返せば、彼は怯んだように口を噤んだ。

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