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act.6影踏スクランブル<44>

「北条、巻き込んで悪かったな」 「葵は奈央と一緒に保健室で待機させてます」 「……そう」 会長職を引き継いだ後輩は冬耶が何を気にしているかを瞬時に察して的確な回答をしてくる。この場に葵を呼ばなかった判断も憎らしいほど冬耶の望み通りだ。 「四人病院送りにして私にも手を上げたんだ。生徒会如きで揉み消せるようなものだと思うなよ。それに西名、お前は卒業した身だ。今更この学園に何の権力もない」 この教師は冬耶が在学中から何かと生徒会に対しての不満をぶつけてきていた。今もいい機会だとばかりに、都古と向き合おうとした冬耶の背中に脅しにも似た台詞をぶつけてくる。 「ええ、ですから生徒会の人間ではなく、烏山都古の保護者として話をさせてもらいます。先生に怪我を負わせたことに関しての処分は受け入れますが、生徒同士の喧嘩に関しては相殺以外飲む気はありません」 教師は冬耶よりも圧倒的に小柄だ。若く、体格も良い冬耶が見下ろすだけで威圧される気分なのだろう。言葉はあくまで丁寧だけれど強い意志を滲ませると、それだけで目の前の彼は悔しそうに睨みつけてくる。 「先に手を出したのはそいつだ。証言は取れてる」 「そのきっかけは?ちゃんとこの子の言い分は聞きましたか?四対一の状況で無闇に喧嘩を売るような子ではないはずです」 都古は好戦的に見えるけれど、彼なりの正義でしか体を動かすことはしない。絶対に何か都古のスイッチを入れる動機があったはずだ。 「それに彼も見ての通り怪我をしています。治療も受けさせずに放置していたことへの責任を追及しても?」 恐らく普段生活態度が良いとは言えない都古に対して何か思うところがあったのだろう。都古自身も病院に運ばれてもおかしくない程の怪我をしているように見えるというのに、何の手当ても受けさせていない。都古が拒んだのだろうとは思うけれど、反撃の口実に使わせてもらうことにした。 「自宅謹慎十日と反省文」 しばらくの睨み合いの末、教師は冬耶の視線から逃れるようにそうとだけ言い残すと不機嫌さを隠しもせずに指導室から出て行った。成り行きを見守っていた若い教師も慌ててその後を追っていったせいで室内に張り詰めていた空気が一気に緩んだ。 「……帰らない」 ようやく都古が固く閉ざしていた口を開いた。教師が残した”自宅謹慎”への拒絶なのだろう。 「みや君が帰る家は俺ん家。それなら文句ないだろ?」 「アオも?」 「あーちゃん連れてくのはダメ。ちゃんと反省しなさい」 突っ張っているくせに心細そうな都古の様子を見たら精神安定剤として葵が必要なのは分かる。だが、理由はどうあれここまでの問題を起こした都古を指導するのも冬耶の責任だ。そこまでは甘やかさないと告げれば都古はまた不貞腐れたような顔になった。

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