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act.6影踏スクランブル<47>

「全く、あーちゃんはみや君に甘すぎるなぁ」 「お兄ちゃん?」 「今日はね、あーちゃんのお兄ちゃんじゃなくてみや君の保護者として来ました」 都古の背中から顔を出したのはおどけた様子の冬耶。彼の表情も、そして言葉も、葵を心から安心させてくれる。冬耶が来てくれたのなら大丈夫だと、手放しに信じられる。 けれど、都古の手当のために保険室へ戻った葵に告げられたのは想像以上に重たい処分だった。 「十日も!?」 謹慎処分なら京介も何度か受けたことがある。でも葵の記憶の限りでは長くて一週間だった。思わず都古の口元へと消毒液を染み込ませたガーゼを強く当ててしまい”痛い”とクレームが来るけれど、そのぐらい我慢してほしい。 「みゃーちゃん、何したの?」 「……ごめん」 葵の視線を避けるようにうなだれる都古からは答えらしいものは返ってこない。葵に対して打ち明けにくい程のことをしでかしてしまったのだろう。許しを請うようにきつく抱きついてくるけれど、このまま放置するわけにはいかない。 「十日もみゃーちゃんが居ないなんて、寂しくて無理だよ」 本当はもっときちんとした理由で都古を叱らなければならないのは分かっている。でもこれが葵の本音だった。 「喧嘩したのは、怒んない?」 「だって、みゃーちゃんが悪いんじゃないでしょ?」 都古は誤解されやすいけれど、本当は穏やかに過ごすことを何より望んでいる。加減を知らないし、やりすぎてしまう傾向にはあるけれど、都古が喧嘩の発端を作るとは思えなかった。 信じている、そう伝えるように優しく漆黒の髪を撫でてやると、都古は嬉しそうにすり寄ってきた。 「アオ、会いに来るから」 「こら、俺の前でその発言は許さないよ。自宅謹慎の意味わかってる?」 「……やだ」 家を抜け出す宣言をした都古を冬耶が見逃すわけがない。都古の首元を掴んで、葵から引っ剥がしてしまった。 「試験も近いし、みや君は俺とみっちり勉強な。また補習漬けになるのは嫌だろ?」 「勉強、無理。死んじゃう」 「沢山勉強したぐらいで死ぬ子がどこに居るんだよ。大袈裟なんだから」 都古をしっかりと見据えて諭す冬耶は、京介や葵だけの兄ではない。まるで都古の兄でもあるようだ。 「少しは賢い生き方を身につけなさい」 勉強のことだけではない。都古の不器用さ全般を指し示すように冬耶はそう言って締めくくる。普段は葵以外に触れられるのを極端に嫌う都古も、今だけはポンと頭を撫でる冬耶の手を大人しく受け入れていた。

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