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act.6影踏スクランブル<49>
* * * * * *
指をすり抜けていく細い金色の髪。伏せられた瞼を縁取る睫毛も同じ色をしている。いつまででも見ていたいと京介は柄にもなく思うけれど、生憎自分の役目はもう終わりだ。
「ありがと、京ちゃん」
ドライヤーのスイッチを切るなり、葵は京介の腕の中に飛び込んで礼を言ってくる。少しだけサイズの大きなパジャマの胸元から覗く白い肌も、華奢なくせに骨ばっていない体つきも、どれほど京介を煽るのか。行動で示してやったというのにちっとも学習していないらしい。
邪魔なドライヤーをカーペットに放り投げ葵を自分の膝の上に招いても、抵抗する素振りすらない。
「お前やっぱ携帯持てよ、買ってやるから」
「……ん、どうしたの、急に」
背後から小さな体に覆いかぶさってしたいことは無限にあるけれど、京介はまず一番現実的な願望を口にした。
昨夜葵が奈央の部屋に泊まったこと自体妬かないといえば嘘になるが、それよりも京介が苛立ったのは嫉妬していないというポーズを貫いていることを都古に見抜かれたからだった。
小さな諍いが続いたせいで顔を合わせればまた揉めかねない。頭を冷やすためにも今日は一日学園を離れていたのだが、それが裏目に出た。
兄や奈央からの連絡に気が付いた頃にはもう全てが終わっていて、学園に戻れば葵がちょうど生徒会フロアに向かおうとしているところだった。泊まる気だったことを示すように枕まで持って、だ。
強引に担ぎ上げて葵を奪い返してきたはいいが、あの分では京介がどうしようもなく嫉妬深いことは奈央にバレてしまったと思う。
「今日みたいなことあったら、直で連絡取れんだろ」
「京ちゃんが学校サボらなければすぐに会えたと思うんだけど」
正当な理由らしく取り繕ったけれど、葵から正論で返されてしまう。けれどいつもふわふわと笑う葵が拗ねたように唇を尖らせる、その表情も可愛くて仕方ないのだからどうしようもない。
「いつも傍に居られるわけねぇじゃん。クラスも違うし、お前は生徒会あるし」
風呂上がりで火照る肌を味わうように剥き出しの首筋に口付けながら、京介はまるで言い訳のような言葉を並べていく。
兄は都古の件を伝える際、生徒会フロアへの引っ越しを葵に話したかどうかも確認してきた。都古と強制的に引き離されたこの状況をいいきっかけにしようと考えているようだった。
葵が移動すること自体を止められないなら、京介が思いつくのは葵にいつでも連絡が取れるツールを渡しておくこと。そうすれば葵が専用のフロアに移動しても自由に呼び出せる。都古を出し抜いて独り占めするのも実現するかもしれない。
ずるく卑怯な手段だけれど、悠長にしている時間はなかった。
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