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act.6影踏スクランブル<50>
「京ちゃん、もしかして寂しい?」
「は?ちげーよ。さっきまで寂しいってぐずってたのはお前のほうだろ」
京介が葵のウエストに回した腕に己の手を重ねながら、葵は思わぬことを言ってきた。都古が居ないことを不安がってぐずぐずと泣きながら家に帰りたがっていたのは葵のほうだ。
「なんだ、違うの」
「そうだったらなんだよ」
「……携帯、買おうかと思った」
甘えるように背を預けてくる葵のほうが、意地を張り続ける京介よりももしかしたら大人なのかもしれない。素直になっていれば目標は達成できていたのかと思うと悔やまれる。だが一度否定した手前、口が裂けても寂しいなんて言えそうもない。
綾瀬や七瀬からダメだと指摘されることはこういうところなのだろう。
「なぁ葵。お前さ、都古が居ないのって嫌?」
「嫌に決まってるよ。なんで?」
「……いや、二人じゃん。それはどうなの」
ストレートに口説くような真似は出来ない。だからつい探るような口調になってしまうが、上手く行けば十日間は純粋に二人きりの夜を過ごせる。都古には悪いけれど、焦りを感じていた京介にとっては願ってもない状況だった。
「ん…きょ、ちゃん……くすぐったい」
言葉では上手く伝えられない代わりに、京介はパジャマの裾からゆっくりと侵入を試みる。途端に耳まで赤くなるウブさは加虐心を煽るだけ。
「京ちゃんと一緒はうれし、けど……真ん中で寝たい」
「悪いけど、俺も都古もそういう趣味はねぇよ」
葵が決して淫らな意味合いで言ったわけでないことぐらい心得ている。だが、もし都古と自分が手を組みさえすれば、葵はきっととっくに落ちていた。それをしないのは葵を独り占めすることが目的だから。
「三人が嫌ってこと?」
今にも泣きそうな声を出す葵を可哀想だとは思う。向けられる愛情がどういう類のものなのか理解出来ない葵に、受け入れろというほうが酷だ。
ただ、都古どころか、生徒会や後輩とまで親密になっている。油断していると無垢な葵が穢されるのも時間の問題だった。
「葵、このあいだの続き、な」
逃げられないよう抱きすくめて囁いた瞬間に葵の唇から溢れたのは、諦めの溜息だった。
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