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act.6影踏スクランブル<52>*

「もう、眠れる、大丈夫」 「寝かすつもりなんてねぇよ馬鹿。今日は俺がいいって言うまで寝るなよ」 「なんで?おまじない、なのに」 葵の疑問はもっともだ。元々悪夢を見た葵を慰めるための行為。きちんと目が覚めている状態の葵に仕掛けるものではない。葵に眠気が訪れたら終わりにするのも暗黙のルールだった。 京介はもう一度唇同士のキスを再開させる。呼吸が出来ないほどの激しいものではなく、柔く舌を絡める程度のぬるいキス。まだこれが葵にとって受け入れられる精一杯のラインなのだろう。今度は抵抗するどころか、恋しそうに京介の首に腕が回ってくる。 「は、んッ…京ちゃん」 合間に名を呼ばれるとつい高ぶってまた力任せに葵を抱き締めたくなるけれど、目的のためにはぐっと堪え葵に気付かれないよう静かに下腹部に手を這わせる。 性感を煽るような動きだと警戒をさせてしまう。京介はキスだけで体を揺らす葵を支えるような素振りで、薄い腹や背骨の浮いた腰周りに触れながらパジャマのズボンへと指を引っ掛けた。 上着同様、ズボンも葵の体には少しサイズが大きい。葵が自分の身長を実際のものより高く見栄を張っているのはこんな時に役に立つ。 「そっち、だめっ…京ちゃん、だめってば」 「いつも通りだろ」 下着ごとパジャマを下ろしていけばようやく葵は京介の不穏な動きを察し、訴えかけてくる。でも葵が望むいつものおまじないも同じことをしているはず。そう封じ込めれば、葵は”でも”と言い淀みながらも身を任せるように京介にしがみつく腕の力を弱めた。 「葵、またココ、させて」 「んや、ぁ、京ちゃん…!」 いつもなら剥き出しにした葵の下半身で触れる場所はキスだけで緩く芯の通った幼い性器。でも、体力のない葵を鳴かせ過ぎると目的を果たす前に葵が飛んでしまうことも前回学習した。 だから京介はひっそりと佇む後孔をまずはツンと指で突いてみせた。濡れることのない器官は京介の指を拒むようにキュッと窄まってしまう。 「葵?いや?」 「…んッ…なん、で…やだ」 「こっちにも慣れて」 強引に事を進めているとはいえ、葵を痛がらせたり怖がらせるような真似は一切するつもりはない。おまじないとしてキスする対象を額や頬から唇へ、首から胸へ、そして性器へと徐々に増やしてきた時のように、葵の許可を取りながら進めていく。 宥めるためのキスすら避けようとした葵も、根気よく繰り返す内に段々と体の力を抜いてきた。 結局、葵は京介を拒まない。拒めない、と言い換えたほうが正しいかもしれない。その性質を利用するのをずるいとは思う。幸樹の言う通り、葵に甘えているという表現も正しいだろう。

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