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act.6影踏スクランブル<59>
「放課後一緒に勉強しようか」
ストレートに誘ってみると葵は嬉しそうに一度は頷いてくれるが、すぐに表情を曇らせる。一体何が葵を迷わすのかと尋ねかけた忍を遮ったのは京介だった。
「お前、家帰ろうとか考えてんじゃねぇよな?」
「あ、うぅ……だって」
葵の思考回路を見通せるのは付き合いの長さ故のようだ。図星を突かれて葵はあからさまに動揺してみせた。なぜか、ぐらいは忍にでも理解できる。冬耶が連れ帰った猫がどうしても気掛かりなのだろう。
「兄貴にも我慢しろって言われてんだろ?」
「ちょっとだけ会うのもだめ?泊まらないから、すぐ寮戻るから」
京介の腕を掴んで必死にねだる様は年齢以上に幼く頼りない。生徒会では聞き分けの良い素直な後輩の印象が強い分、そうした葵の姿はある種忍の目には新鮮に映った。と同時に葵に我儘を言われたり甘えられる立場が羨ましくもなる。
だからつい、二人の攻防に口を挟みたくなった。
「葵、カラスの謹慎日数を一日でも短くできないか交渉しているから」
嘘ではない。真実だ。それが葵を喜ばせることになるなら、子供じみた嫉妬に囚われず都古を早く解放してやりたいと思う気持ちも本心だ。それに実現してみせる自信がなければ葵を期待させるようなことははなから言うつもりはない。
「本当ですか?」
思惑通り嬉しそうに忍へと期待のこもった目を向けられるとそれだけで満たされる。数ヶ月前には冷たいと評されることの多かったはずが、葵相手に随分と変化させられてしまった。
「甘やかすなよ、頼むから」
都古が帰ってきて困るのは京介だ。礼を言う葵とそれを受け止める忍を見て、気の毒なほど狼狽しているのが見受けられる。
「カラスが早く帰ってきて西名が困ることはないだろう?」
分かっていてあえてこう追い詰めれば、京介はその場から逃げるように立ち去ってしまった。当然のように葵の手を引くのも忘れない。
葵と昨晩二人きりで過ごし、朝も甘い時間を堪能していた京介につい意地悪をしすぎたかもしれない。けれど葵に少しでも笑顔が戻って良かったと、二人の後ろ姿を見送りながら忍は感じていた。
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